■ゴースト・イン・ザ・シェル (監督:ルパート・サンダース 2017年アメリカ映画)
映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』は予告編を観た時からいろいろヤヴァ気な雰囲気がプンプンとしていた。ビジュアルは所々では悪く無かったし、原作を割と丁寧になぞってあるのだろうということは感じたが、だがしかし、「想像を超える様なもの」は殆どなかった(シティに躍る人体のでっかいホログラフは意外とイケた)。
で、実際観てみると、残念ながらやはり予告編から想像できる以上の作品ではなかった。原作の持つSFテーマそれ自体は決して古びていないと思うのだが、それを原作発表後20年以上経てから実写映像化してみると、他の映画でさんざん使いまわされたイメージやプロットばかりが羅列されることになり、どうにも新鮮味に欠けるのだ。
このテの「近未来クライムアクション」はどうしても『ブレードランナー』(1982)の呪縛から逃れられない運命を背負っているが、まあその辺は頑張ろうとしてはいたと思う。『ブレードランナー』は要するに西洋社会の没落と東洋的なものの流入だが、この『ゴースト〜』ではさらに一歩進んで「そんな中でも中国は元気」といったビジュアルが面白かった(まあ中国資本が入っているからなのだろうが、それが逆に映画を猥雑で面白くしている)。
けれども、だ。やはり『ブレードランナー』は越えられないのだ。さらに「電脳世界」といった部分においては、『マトリックス』をも、超えていないのだ。まあそこまでは期待していないとしても、それらとはまた違うビジョンが『ゴースト〜』原作にはあったはずで、そこにも到達していないのだ。そもそも「結局一番悪いのは企業ですよ!」なんてェのは『エイリアン』(1979)のウェイランド=ユタニ・カンパニーだし『ロボコップ』(1987)のオムニ社だし、SFとしてもどうにも前世紀的じゃないか?個人VS巨大資本の構図なんて、マルクス・レーニン主義の残滓じゃないか?
そこじゃない、『攻殻機動隊』は、そんな作品じゃないのだ。マン・マシーンの自我が到達する、新たな進化の地平線を垣間見せること、それが『攻殻』だったんじゃないか?この映画が中心テーマとして据えてしまった、自分が人間か、機械か、なんていうアイデンティティ・クライシスなどその遥か前段階でしかないのだ、人間でも、機械でもない、新たなる"何か"へのステージを描き出そうとしたのが『攻殻』だったんじゃないのか?
だが原作のそんな側面を映像化したら一般客が置いてけぼりになると考えたのだろう、その代わりに新規に投入されたのが家族とか愛とか復讐とか、まあとても分かり易く同時にとても生臭いお話、というのが映画版『ゴースト〜』だったというわけだ。だがなあ、そんなのは他の映画でやってほしかった、そんなお話は『ゴースト〜』になんか求めていないのだ。
しかし同時に思う、主人公素子の「ネットは広大だわ」という印象深い言葉で締めくくられる『攻殻機動隊』第1巻から早20有余年、広大なはずのネットは規制とセクト主義と中傷合戦と企業広告に溢れ返る陳腐な世界になってしまったようにも思う。かつてインターネットに夢見たドゥルーズ的リゾ−ムの世界は結局幻だったのかとも思う。いや、これはきっと単なるオレのような老人の繰り言でしかないのだ。もっと賢くて、若い人たちは、既に新たなる"何か"へのステージに、その地平線にきっと立っているのだ。
そんな老害となり果てたオレにとって、映画『ゴースト〜』のただ一つの見所は、主演を演じたスカーレット・ヨハンセンの、その人間離れした美しさ、これに尽きるだろう。アンドロイド役だけあってまるで作りもののように美しいのだ。まあなんかエフェクト使ってるんだろうが。
で、そのスカヨハが着る光学迷彩スーツ、これがどうにも肌色に限りなく近い色で、最初見た時に「スカヨハ、全裸ッ!?」とオジサンは目を見張ってしまったのだ。これが光学迷彩スーツと分かった後も、オジサンにはやはりスカヨハが全裸に見えてしょうがなくて、「これは全裸なんだ、今オレの目の前でスカヨハが全裸で飛んだり跳ねたり足を開いたり閉じたりしているんだ……ッ!!」と妄想が膨らみまくり、さらに別の部分も膨らみまくってしょうがなかった。
考えてみると原作『攻殻』は思弁的サイバーアクションであると同時に薄物着た主人公素子がたわわな乳房とくびれた腰を強調し、おまけにやたら股間を開きまくるエロエロなSFでもあったではないか。であるならオレが『ゴースト〜』のスカヨハに限りなくエロを感じたなら、ある意味この映画化は十分要を成しているといえるのではないか。しかし映画『ゴースト〜』はあらんことか押井版アニメの影響が強く、無意味に暗い上にクソつまらない屁理屈が多いのだ。しかもその屁理屈のこね具合が押井の域に達していないから単に辛気臭いだけなのだ。映画でもスカヨハはずっと眉間に皺寄せまくって表情に変化がなく、その美貌をだいなしにしていた。結局この映画の敗因は無理して押井の真似をしようとしたところにあったのかもしれない。
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