最近聴いたエレクトロニック・ミュージックその他

Jeff Mills

Wonderland / Jeff Mills and The Zanza 22

Jeff Mills、以前はハードミニマルのトップアーチストとしてテクノミュージック界に君臨していたけど、いつの頃からか冨田勲みたいに《宇宙幻想》の彼方へと飛んで行って帰ってこれなくなった人で、オレもある時期から見切ってはいたが、しかしこのニューアルバムは久々に傑作と言っていいんじゃないのか。しかもその音はハードミニマルではなくエレクトロニック・ジャズ。生っぽいパーカッションやギターの音が既にJeff Millsぽくなくて新鮮で、しかしてそれがJeff Millsらしいミニマル展開をしてゆくという面白さ。これは新境地ってやつじゃないか。でもJeff Millsのことだからまた新しい音を探してどこか遠くへ飛んで行ってしまうんだろうけど。

Planets / Jeff Mills

前述のアルバム『Wonderland』が面白かったのでついでにもう一枚とJeff Millsのアルバムを買ってみた。この『Planet』はホルストによる有名なクラシック作品とは別物で、Jeff Mills自身がこの現代において「惑星」を音楽化したらどうなるか、を追求した作品となる。2枚組でCD1がフルオーケストラ、CD2がその原型となるテクノ作品。ただコンセプトとしては面白いのだが、音的にはやはり「宇宙の彼方に飛んで行ったJeff Mills」のままなんだよなあ。

77 Million / Brian Eno

以前京都で開催されていたBrian Eno展を記念して再発売されたレアアルバム。2006年に原宿の展覧会で1000枚限定発売されていた作品リイシューなのだとか。アンビエント作品ではなく、Enoらしい実験的エレクトロニックミュージック集。

What I Breathe / Mall Grab

What I Breathe [Explicit]

What I Breathe [Explicit]

  • Looking For Trouble, distributed by LG105
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オーストラリア出身、UKを中心に活躍するMall Grabのニューアルバム。ローファイ・ハウスと呼ばれるジャンルとなるのだが、おそらく古いレア機材を使ってハウス・サウンドを構築していると思われ。奇妙に懐かしい感じがするのはそのせいか。

Cry Sugar / Hudson Mohawke 

マシュマロマンと半裸の女性の後ろ姿を描いた変なジャケットに惹かれて聴いてみたが、音自体は奇妙な明るさと性急な高揚感に溢れたエレクトロニック・ミュージックで、こういった曲調を「アンセミック・サウンド」というのらしい。祝歌や讃美歌という意味だが、パンデミックで打撃を受けたクラブ・シーンのモチベーションを高めたいという作者の意図があるのらしい。

Infinite Window / Kuedo 

Infinite Window

Infinite Window

  • Brainfeeder
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ダブステップエレクトロニカを融合させたというKuedoのアルバム。美しいストリングス音の狭間に響き渡る重低音。

The Essential Matt Bianco: Re-Imagined, Re-Loved / Matt Bianco

マット・ビアンコは1980年代にファンカラティーナ・バンド、ブルー・ロンド・ア・ラ・タークとしてデビューし、その後マット・ビアンコと改名。現在はジャズ・テイストの音を送り出すユニットとして活躍するが、そのマット・ビアンコの過去のヒット曲をニューアレンジとミックスで製作したアルバムが本作。

Global Underground: Adapt #5 / Various Artists

UKの老舗ダンス・ミュージック・レーベルGlobal Undergroundの新作ミックスは定番のテックハウス/プログレッシヴハウス。D/L版はアンミックス曲も含めて4時間26分の大ボリューム。

Global Underground: Afterhours 9  /  Various Artists

またしてもGlobal Undergroundの新作ミックス。こちらもミックス/アンミックス含め7時間余りの大ボリューム。当然テックハウス/プログレッシヴハウス(実は両者の違いがよく分からない)。

Collapsed in Sunbeams / Arlo Parks

Collapsed in Sunbeams

Collapsed in Sunbeams

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そういえば一時Arlo Parksのこのデビューアルバムばかり聴いていた時期があった。Arlo Parks、サウス・ロンドン出身のシンガーソングライターで、まだ20代の若さにも関わらず、その高い才能から2022年第64回グラミー賞にノミネートされた経歴を持つ。音自体は90sオルタナティヴ・サウンドの匂いがするが、聴いていて、とても和むのだ。そのどこかあどけない歌声は、何か記憶に無いはずの懐かしさを想起させる。夢見がちな繊細さと同時に、揺るぎない確固たる自己も持ち合わせているように感じる。それとネグロイドの血を引く彼女だが、奇妙に人種を感じさせない歌声がいい。人種的偏見に聞こえるかもしれないが、つまり黒人女性シンガーというのは黒人女性シンガーの歌声を期待されてしまうと思うのだ。しかし彼女は奇跡的にそこから逸脱し、なおかつ彼女独自の才能を持っているのである。これはUK出身だから成し得たことで、アメリカのショービズでデビューしようとしたらこうはいかなかったかもしれない。

Super Sad Generation / Arlo Parks

Super Sad Generation

Super Sad Generation

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そのArlo Parksのシングル曲と未発表曲を集めたアルバム。そしてこれが暗い。暗くて悲しくて、とても切ない歌声だ。しかしデビューアルバムから振り返りながら聴いてみると、この暗さと悲しさと切なさが、デビューアルバムの持つ仄かな希望と安らぎへと結実したのかと思うと感慨深い。