嫁いだ先にはトイレが無い!?~映画『Toilet: Ek Prem Katha』

■Toilet: Ek Prem Katha (監督:シュリー・ナーラーヤン・シン 2017年インド映画)

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嫁いだ家にはトイレが無かった!?

大恋愛の末結婚したけれど、嫁いだ先の旦那の家にはトイレが無かったッ!?というか村全体にトイレが無い!?という驚愕の事実が大騒動を生む実にインドらしいインドのコメディ映画『Toilet – Ek Prem Katha』です。主演はインド映画売れっ子大スターアクシャイ・クマール、そして"おデブ嫁のてんやわんや"を描いた快作『ヨイショ!君と走る日(原題:Dum Laga Ke Haisha)』に主演したブーミ・ペードネーカル。ちなみにタイトルの意味は『トイレ ある愛の物語』なんだそうで、ここから既に面白そうな作品です。

物語はなにしろ男女の大恋愛から始まります。田舎町で自転車屋を営む ケーシャヴ(アクシャイ・クマール)は都会の娘ジャヤー(ブーミ・ペードネーカル)を見て一目惚れ、すったもんだの挙句相思相愛に相成り結婚へと漕ぎ着けます。しかしジャヤーが旦那の家に嫁いでみると、なんとトイレが無い!?それだけではなく村全体にトイレが無い!?なんとその村は、草むらに入って用を足すのが当たり前になってる村だったのです!「ぜってーありえねーッ!!こんな旦那別れちゃるーーッ!!」ブチ切れたジャヤーを引き留めるためケーシャブは家にトイレを作ろうとしますが、なんとそこにはとんでもない難関が待ち構えていたのです!!

なんでトイレが作れないんだ!?

いやもうインドでなけりゃ考えられないようなとんでもなく可笑しなシチュエーションから始まる秀逸なコメディでした。とはいえ「インドでなけりゃ」とは書きましたけれど、世界ではいまだ3人に1人がトイレの無い生活をしているのだそうで、決してインドだけの問題ではないのは確か。

ユニセフ「世界トイレの日」プロジェクト | UNICEF World Toilet Project

 しかしこの物語は「トイレがあって然るべき都会」で暮らしていたインド人女性が「トイレが無いのが当たり前の田舎」に「結婚」という形で縛り付けられなければならない、という部分で悲喜劇を生み出してるんですね。

「じゃあトイレ作っちゃえばいいだけの話じゃん!」と普通思うでしょう。しかし「トイレが無いのが当たり前の田舎」にはそれなりの理由があったんです。それは、貧乏でトイレを作るお金も無いとかそういう理由ですらなかったんです。なんとその村では、「トイレは不浄をもたらすものだから家に作ってはいけない」という宗教上の理由があったのです!インドには貧困によってトイレが無い家もあるのでしょうが、「宗教上の理由」によるものもあると知ってびっくりしました。

そして、「宗教上の理由」であるからこそそれは当地のコミュニティにおいては絶対の決まりであり、いくら新妻のためとはいえ、ケーシャヴは簡単にトイレなんか作れないんです。おまけにケーシャヴの父親は僧侶であり、「宗教上の理由」を破ることは同時に自分の父親を否定し反抗することに他ならなかったんです。物語の中盤までは新妻ジャヤーも我慢に我慢を重ね、いろんな方法でしのいでいましたが(この辺も気の毒ではあるけどまたまたコミカル)、遂にブチ切れ実家に帰り、あまつさえ旦那に離婚請求までしてしまいます!絶体絶命のケーシャヴ!ケーシャヴの明日はどっちだ!?

非常に優れたコメディ作品

この作品の優れている部分は幾つもあります。まずインドの今日的な問題を扱っている点。実際インド政府もトイレ普及問題には頭を悩ませているそうで、ある意味この作品、「国策映画」でもあるんです。もうひとつは、ロマンス映画の終点である「幸せな結婚」の、その先にある現実的で困難な問題を描いている点。そう、結婚だけで人生はメデタシメデタシなんかじゃないんです。そういった目の付け所がいい。さらにもうひとつは、抑圧的で支配的なインドの父親像に、主人公が反旗を翻す場面を描いている点。インドの悪しき伝統に物申さなければならない時、インドの悪しき父親像にも物申さないとどうしたって収まらないんです。こう言った点が新しい、と感じました。

それとこの物語は女性の人権の物語でもあります。外で用を足す村の女性たちは男たちの心無い悪戯にも遭っていたんですよ。でもそれは仕方ないことだと諦められていた。けれど、ジャヤーが「トイレが無いのはおかしい!」と声をあげた時、村の女性たちもやっとこんな境遇が間違っていると言うことが出来るようになったんです。そしてジャヤーはある行動を起こすんですね。こんなジャヤーを演じるブーミ・ペードネーカルがとてもいい。インド映画にありがちなモデル顔の美人女優ではなく、物語のリアリズムを感じさせる庶民的で地に足の着いたルックスをしている。だってトイレ問題がテーマの映画のヒロインがカトリーナ・カイフやソーナクシーじゃリアリティが無くなっちゃうと思いません?

さらにベタ褒めしましょう。それは主人公ケーシャヴ。彼は、「トイレが無い」という妻の直面した難問を、真摯に聞き入れなんとかしようとするんです。「オラの村の決まりだから言うこと聞け!」なんてやらないんです。トイレ設置に対する父親の猛反対があった後にも、様々な苦肉の策をヒリ出して、なんとか妻の意に沿おうとするんです。にもかかわらずやっぱりうまく行かなくて妻は家を出てしまいます。しかし!ケーシャヴはそれでも諦めないんです!ここからのケーシャヴの大奔走の姿には目を見張ります。例え結果がどうあろうとも、己のできることを、できるだけやる。悩み打ちひしがれながら行動することを止めないケーシャヴに、ああ、これこそがインドの聖典バガヴァッド・ギーター的な姿なんだな、としみじみ思わされましたよ。


Toilet Ek Prem Katha Official Trailer | Akshay Kumar | Bhumi Pednekar | 11 Aug 2017 

バガヴァッド・ギーター (岩波文庫)

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