■悪党への復讐に燃える元警官!〜映画『Zanjeer』 (監督:プラカーシュ・メーラ 1973年インド映画)
悪党に濡れ衣の罪を着せられ退職に追い込まれた元警官が復讐に打って出る、というアミターブ・バッチャン主演のアクション映画です。「怒れる若者」アミターブ・バッチャンの名を世に知らしめた出世作が本作なのらしいんですね。ヒロインは当時アミターブと挙式間近だったジャヤー・バードゥリー(現ジャヤー・バッチャン)。
主人公の名はヴィジェイ(アミターブ)、正義を愛する熱血警官の彼はある組織犯罪を追っていましたが、その目撃者であるナイフ研ぎの少女マーラ(ジャヤー)を自分の家に匿うことになり、二人には次第に愛が芽生えてゆきます。その後ヴィジェイは悪党の陰謀によって収賄の濡れ衣を着せられ刑務所に入れられますが、そんな彼を助けたのが親友のシャー・カーン(プラン)でした。出所したヴィジェイはシャーと共に悪党を追い詰めます。
2時間半程度の上映時間なんですが、ストレートな構成とテンポの良さで、あっという間に観終わった感じですね。あれもこれもと盛り込まず、要所要所に見せ場を作ってある部分が功を奏したのでしょう。冒頭、幼い頃の主人公の悲劇的な体験から始まり、警官となって賭博場の親分と争い、その親分と親友になる主人公、そしてヒロイン登場で歌と踊り…といった感じで、いい具合に物語に引き込んでゆくんですね。
主人公ヴィジェイのキャラクターは、正義一徹で四角四面、という実に分かり易いものであることも物語にすんなり入っていける要因かもしれません。一方ヒロインは自分の力で生活費を稼ぐ男勝りの逞しさを持ちながら、少女の可憐さも持った女性です。そして出色なのが主人公の親友シャー・カーン。彼はパサン族〔パキスタン西北部とアフガニスタンとの国境地帯の部族)という設定なのですが、赤毛の髪と髭を生やし、インド映画でもあまり見慣れない服装をしていて、奇妙に怪しいキャラなんですね。彼の独特のキャラクターが物珍しく、映画に異色な風合いを持ち込んでいました。
さらにこの物語、裏テーマにヴィジェイが子供の頃殺された両親の復讐というのが盛り込まれており、それがクライマックスで物語を大いに盛り上げてゆくのですよ。当時大ヒットしただけあってなかなかに技ありの作品でしたね。
■禁じられた不倫のゆくえ〜映画『Silsila』 (監督:ヤシュ・チョープラー 1981年インド映画)
死んだ兄の許嫁に同情し、恋人と別れてその許嫁と結婚した男アミットが、別れた恋人への未練が絶ちきれず、既に結婚してしまった元恋人と不倫に走ってしまう、というアミターブ・バッチャン主演のメロドラマです。で、ヒロインの配役が凄くて、まずアミットが結婚した女性・ショーバーにアミターブ・バッチャンの実際の嫁ジャヤ・バッチャンを、そして不倫をしてしまう元恋人・チャンドニーを、アミターブが当時実際に不倫していたという噂のレーカーがやってるんですね。なんかもー自分のスキャンダルをそのまま映画にしちゃいました〜というとっても生臭い配役なんですよ。
ただまあそういった作品内容以外のことは忘れてきちんと観てみると、これが意外とよく出来た作品なんです。死んだ兄の言った「自分の許嫁の面倒を見てやってくれ」といった言葉を恋人と別れてまで実行した主人公は非常に肉親想いで義理堅い男だということができるし、にも関わらずやっぱり元恋人に後ろ髪引かれるというのも、いいか悪いかは別としてとても人間臭い感情だと思います。まあ結局主人公の優柔不断さが全部悪いんだけどな!そして悪いことはできないもの、二人の嘘は次第にほころんでゆき、周囲の人たちは段々とこの二人なんかおかしい、と気づいてゆくんですよ。この、秘密が徐々にバレてゆく、という描写が、完全犯罪が徐々に破綻してゆく様を描いた犯罪ドラマみたいで妙にスリリングなんですよ!こういう観方をする映画じゃないとは思うんですが!
そしてこの映画の見所はもう一つ、こういった俗っぽいメロドラマを、格調高く端正な描写で美しい物語に仕立て上げたヤシュ・チョープラー監督のただならぬ力量でしょう。映像も実に美しく、時々ヨーロッパ映画を観ているような錯覚さえ起こしてしまうぐらいです。ヤシュ・チョープラー監督作品は『Jab Tak Hai Jaan』(2012)や『Veer-Zaara』(2004)他数作しか観たことがありませんが、1981年作のこの作品の高いクオリティを見るにつけ、なぜ巨匠と呼ばれるのか分かるようになってきました。それにしても主人公と不倫相手の元恋人、自分の嫁や旦那の目の前でキャッキャウフフ踊ってんじゃねーよ!なんでそう脇が甘いんだよ!だからバレるんだよ!