■Kabhie Kabhie (監督:ヤシュ・チョープラー 1976年インド映画)
最初に愛しあう恋人同士が描かれる。男の名はアミット(アミターブ・バッチャン)、女の名はプージャ(ラーキー・グルザール)。続いて画面に登場するのは、悲しげな顔で何かを見つめるアミットの姿だ。彼の視線の先では結婚式が行われている。それは彼の恋人プージャと見知らぬ男ビジェイ(シャシ・カプール)との結婚式だった。
1976年にインドで公開された映画『Kabhie Kabhie』は、親の決めた結婚により引き裂かれたカップルの物語である。しかしインド・ロマンスではお馴染みのシチュエーションを持ちながら、この物語はさらにその未来を描く、という独特の構成を持っている。出演者は他にリシ・カプール、ワヒーダ・ラフマーン、ニートゥ・シン、ナシーム、シミ・ガーレワール。監督はロマンス映画の大家ヤシュ・チョープラー。
この物語の独特さは、”引き裂かれたカップル”の、その20年後を描くという部分にある。20年の間にアミットも結婚し、子供をもうけている。プージャとビジェイの間にも子供がいる。生活は落ち着いており、彼らは皆相応に年老い、髪にも白いものが混じった容貌で登場する。アミットとプージャの中で”引き裂かれた”ことによる懊悩は、決して消え去るものではないにせよ、20年という歳月は、それを「遥か過去の思い出」として風化させているのだ。要するにこの物語、かつて”引き裂かれたカップル”の、「焼けぼっくいに火が付いた」話では全く無いのだ。
そして登場するのは若者たちの姿だ。それはプージャの息子ヴィッキー(リシ・カプール)、彼の恋人ピンキー(ニートゥ・シン)、ヴィジェイ家の娘スウィーティー(ナシーム)だ。彼らの三角関係がこの物語のもう一つの軸となるが、”引き裂かれたカップル”の子供たちが同士がまたしても恋に落ちる、という設定が面白い。また、ピンキーは出生の秘密を抱えており、実はそれがヴィジェイ家に関わるもので、物語にじわじわと波紋を投げかけることになる。さらにアミットとプージャは20年ぶりの再会を遂げるが、彼らにとって愛は"昔の話"なのにもかかわらず、プージャの夫ビジェイはあらぬ嫉妬に身悶えることになる。
これらストーリーだけを掻い摘めばよくあるメロドラマということになるが、しかしこの作品は凡庸さに堕することなく美しいドラマとして結実している。それは作品のテーマとなるものが「過去にこだわらず未来に目を向けて生きて行こう」という部分にあるからだ。登場人物たちはそれぞれが直面する「過去の事情」に、最初戸惑いや苦しみ、そして怒りを覚える。だが誰もがそういった葛藤を軽やかに乗り越え、よりよい今を選択し、未来に繋げようとする。素晴らしいほどに前向きなのだ。そしてそういった前向きさが感銘を生むのだ。
同時に、やはり監督であるヤシュ・チョープラーの映画的な話法、見せ方がとてもいい。以前観たチョープラー作品でも端正で清々しささえ感じる映像を見せられたが、この作品の空気感にも同様なものを感じた。それと伝統的なインドにこだわらない、どこかヨーロッパ的とすら思える情景描写だろうか。チョープラー作品はそれほど観ていないのでこの作品が彼の作品史のどの部分に位置するものなのかは分からないが、中盤の若者風俗の古臭ささえ気にしなければきちんと作られた良作なのではないか。
http://www.youtube.com/watch?v=wqXKNMPWWio:movie:W620