死体安置所から忽然と消えた死体を巡るスペインのサスペンス・ホラー〜映画『ロスト・ボディ』

■ロスト・ボディ (監督:オリオル・パウロ 2012年スペイン映画)


ある晩、死体安置所の警備員がパニック状態のまま道路に飛び出し、車に轢かれて意識不明の重体となるんです。警察が駆けつけると、死体安置所からは1体の女性の死体が消えていました。警備員はいったい何を見たのか?そして女性の死体はどこにいったのか?といったお話なんですね。しかもこの死体の女性は、元夫に自然死に見せかけて殺されたものだったんです。死体が消えた事で元夫は恐怖に震えます。そしてこの元夫を責めるように犯罪の証拠が彼の周りに突然現れたりするんです。さらに警察もこの元夫の殺人を疑い始め、捜査を開始するんですね。
この物語が面白いのは、死んだ妻が亡霊となって元夫を責めさいなむホラーなのか?それとも妻は死んでいなくて、姿を隠したまま夫に復讐をするサスペンスなのか?またはそれらとは全然関係ない理由が背後に隠されているのか?ということが最後まで分からない、という部分ですね。事件のカギを握る警備員がずーっと意識不明のまま、という引っ張り具合もいいんですね。ただ死体が消えただけならパニックを起こして逃げ出したりはしないでしょう。では彼は何を見てしまったのか?という部分でどんどん気になってくるんですね。
こんな具合に、ホラー的な演出もサスペンス的な演出も両方成されているがために、観ているほうとしては結末に何が待っているのか予測がつかないんですよ。死んだ妻の幻影が元夫の背後に!?おおおきたきたホラーだよ!という描写があっても実は元夫の悪夢だったりするし、監視カメラの電源が切られてるのはやっぱり人間がやったからか…でもそれも亡霊のせいともできるし…と両方考えちゃうんですよ。そしてこれがもしホラーじゃないとするなら、誰がどんな目的で死体を隠したのか?という推理ドラマ的な側面も浮かび上がってくるんですね。
そしてラストには思いもよらぬ驚愕の大ドンデン返しが待ち構えてます!「うおおお!?そういうことだったのか!?」とびっくりすること請け合いですよ!いやまさかこう来るとはね…。物語の進行も十分サスペンスフルでしたが、このラストでさらにピリッと引き締まった感じです。スペインのホラー・サスペンスは『永遠の子供たち』『REC/レック』『アザーズ』など、コントラストの強い死生観とウェットな情感に溢れた映画が多いですね。この『ロスト・ボディ』もこれらと同じくヨーロッパ的な暗さと情緒が独特の雰囲気を醸し出す佳作でしたね。男優も女優も知らない方ばかりでしたが、それぞれに渋くてよかったですよ。

ロスト・ボディ Blu-ray

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ロスト・ボディ DVD

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