最近読んだ本 / 『夜の姉妹団』『いずれは死ぬ身』 柴田元幸 編・訳

■夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 / 柴田元幸 編・訳

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 (朝日文庫)

夜の姉妹団―とびきりの現代英米小説14篇 (朝日文庫)

少女たちが闇の中へと消えていくその訳は?終わりのない新婚旅行って?不倫・猫・肥料、その関係は?人の死は引っ越しと同じ?スティーヴン・ミルハウザーレベッカ・ブラウンジョン・クロウリーウィル・セルフなどなど、現代英米小説を精力的に紹介しつづける編者が厳選した魅惑の短篇集。

■いずれは死ぬ身 / 柴田元幸 編・訳

いずれは死ぬ身

いずれは死ぬ身

死、喪失、別離、崩壊……人生で避けて通れないそれぞれの瞬間。スチュアート・ダイベック「ペーパー・ランタン」、ポール・オースター「ブラックアウツ」他、17篇収録のアンソロジー。

この『夜の姉妹団』と『いずれは死ぬ身』の2冊は翻訳家・柴田元幸氏が雑誌「エスクァイア 日本版」において氏の好きな現代小説を選んで訳出し、連載していたものを中心まとめた単行本です。柴田元幸氏についてはよく知らなかったんですが、「カリスマ翻訳家」なんていう評判まであったので調べてみたら、優れた翻訳をするだけでなく、なんでも村上春樹氏の翻訳本のバックアップチームの一人だったらしく、そういった方面での人気も高いのかもしれませんね。
さてその柴田元幸氏のセレクトした現代英米文学短編集、ざっくり言うなら"ポストモダン文学"の作品が並んだもの、とでもいえばいいのでしょうか。作家にしても有名作家から日本でまだ知られていない作家まで様々ですが、全体的に非常にインテリジェントな作品が多く感じられました。
『夜の姉妹団』では割と"奇妙な味"の作品が多くこちらのほうが好みでした。夜な夜な秘密の会合を開く女子高生たちの謎「夜の姉妹団」をはじめ、性のもどかしさを詩的な筆致で描くスチュアート・ダイベック「僕はしなかった」、19世紀末イギリスで密かに蔓延した奇妙な疫病の話:ジョン・クロウリー「古代の遺物」、アメリカ人と初めて接したロシア人の屈折した感情を描く「境界線の向こう側」、ポルノ映画館でかつて世話になった男を捜し求める神話的なゲイ物語:ジェームズ・パーディ「いつかそのうち」、ボルヘス作品「南部」のその後の物語を追い求める男が彷徨いこんだ異界:ラッセル・ホーバン「匕首を持った男」、キャットフードのラベルに取り付かれた男を描くルイ・ド・ベルニエール「ラベル」など、スマートな語り口調の中に奇妙な・あるいは奇怪なオブセッションが紛れ込む物語が多かったですね。
一方『いずれは死ぬ身』はタイトルが暗示するように生の寂寞感や虚無感の漂う物語、また逆に死に瀕しながらもしぶとく生き残る物語が多かったでしょうか。それと合わせ、柴田元幸氏の好みだというナンセンス・不条理感漂う作品とが半々ぐらいに並べられていますね。『夜の姉妹団』のオブセッションの奔出と比べると、もっと文学性を感じさせる作品が多く、ある種の点景を切り取ったような静的な作品が並んでいるように感じました。どこか淡々としている分、ちょっと大人しめの作品集になっているんですが、何か奇矯なことが起こるというよりは日常的なちょっとした微妙な感情をクローズアップさせたような物語を中心にセレクトしていました。