「わたしゃ宇宙人のワンあるよ!」とイカ型宇宙人は言った〜映画『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』

■宇宙人王(ワン)さんとの遭遇 (監督:マネッティ兄弟 2011年イタリア映画)

  • 中国語通訳を職業とする主人公が政府の秘密組織に連れられ、通訳を頼みたいと対面させられた相手は、なんと中国語を話すエイリアンだった!?というお話です。
  • 最初、この変なタイトルに「なんじゃこりゃ?」と思ったんですよ。しかも中国映画かと思ったらイタリア映画、そして純然たるSFのようなんですね。なんだか変な映画の匂いがプンプンして、こりゃ観に行かなきゃ、と映画館に行ってきました。
  • 主人公女性ガイアは最初エイリアンの姿を観て慌てふためきます。このエイリアン、なんかイカみたいな姿をしていて、手足もいっぱいある。しかし、エイリアンは政府の秘密機関の連中に拉致監禁され、手足を縛られた惨い姿で座らされている。そして、地球来訪の理由を疑い、執拗な尋問を繰り返す政府機関に拷問まで受ける場面を目の当たりにし、ガイアは次第にエイリアンに同情し、なんとかここから逃げ出させられないか、と考えるんですね。
  • 何故このエイリアンが中国語を話すのか?というと、地球で一番話されている言語が中国語だから、とエイリアンは答える。これ、非常に理にかなった説明なんですね。そしてエイリアンは、地球に来たのは、友好の為なんだ、と何度も説明するのですが、疑心暗鬼の塊となっている政府機関は、嘘こけ本当の事を白状しやがれ!の一点張りで、仕舞いには電気ショックによる恐ろしい拷問を始めるのです。
  • SFというジャンルは、現実にある"なにか"を戯画化し、それを誇張することでその現実にある"何か"の問題を浮き上がらせることを非常に得意とするジャンルでもあります。例えば、ハリウッドSF映画に、宇宙からやってきたエイリアン軍団やモンスターが襲い掛かる、という描写が多かったりするのは、エイリアンを現実の敵国の脅威やテロへの恐怖の暗喩として用いていたりするわけです。
  • そうした面から見ると、この映画『宇宙人王(ワン)さんとの遭遇』は、例えば犯罪者やテロ組織構成員と見なされ逮捕された者への仮借ない監禁や尋問、そしてアメリカのグァンタナモ基地秘密収容所における捕虜虐待に見られるような国際法を犯した拷問を秘密裏に行っていることへの恐怖を描いている、と見る事もできます。また同時に、平和と友好を訴える隣国や他国は、果たして本当に信用できるのか?というパラノイアックな恐怖もここには存在しています。
  • そういった、現実の政治的な恐怖というものがこの物語には見え隠れしているんですね。しかも最も面白いのは、このようなテーマのSF映画が、アメリカではなく、イタリアで製作された、ということなんですね。
  • 映画それ自体は非常に低予算で仕上げられているようです。ロケーションは殆どエイリアンが監禁された地下室のような場所だけ、エイリアンの造形も、上手く作ってありますが、まあ作り物臭いといえば作り物臭くはあるかもしれません。CGIなんかも頑張っているようですが、予算ギリギリで作成しました、という拙さはあったりします。しかしテーマそれ自体が秀逸なので、そういった低予算さを気にさせない面白さはあります。この辺はこの間公開された『アイアン・スカイ』に近い製作者の心意気を感じました。
  • それと主人公女性ガイアを演じるフランチェスカ・クティカさんという女優さんがなにしろ綺麗で、殺伐とした映画に華を添えていますね。
  • そして問題はなにしろこのラストでしょう。勿論詳しく書くことは差し控えますが、ハリウッド映画じゃ絶対こんな風にはしなかったであろうヨーロッパならではのシニシズムが全開していましたね。このラストをどう見るかで映画の評価は変わってくるかとは思いますが、テーマの斬新なあり方という点で、ひとつのSF映画として十分評価していい作品だと感じました。

(↓とてもお美しい主演女優フランチェスカ・クティカさん)