ウィリアム・ギブスン脚本による幻の『エイリアン3』をコミック化した『エイリアン3 オリジナル・スクリプト』

エイリアン3 オリジナル・スクリプトウィリアム・ギブスン(作) ジョニー・クリスマス(翻案・画)

エイリアン3:オリジナル・スクリプト 限定カバー版

1992年にデヴィッド・フィンチャー監督により公開されたSFサスペンス映画『エイリアン3』は企画段階から非常にトラブルが絶えなかった作品であり、公開後もその評価はシリーズ作品としては今一つのものだった。

オレも劇場で最初観た時は「なんじゃコリャ」と憤慨したクチだが、やはりそれは1作目2作目のサスペンスやスペクタクルとあまりに掛け離れた作品で、まるで期待にそぐわなかったからだった。しかしその後何度か観直す度に、この作品なりの美点や面白さが伝わってきて、今では「これはこれでアリの作品なんじゃないか」という評価に落ち着いている。4作のエイリアン・シリーズを見渡してみると、それぞれに特色がありカラーが違っていて、そこが面白いと思うのだ。

その『エイリアン3』、脚本にSF作家ウィリアム・ギブスンが参加していた、というのはSFファンには割とよく知られている事柄だったのではないだろうか。ウィリアム・ギブスン、『ニューロマンサー』や『カウント・ゼロ』など、今ではお馴染みの「サイバーパンク」というジャンルの草分けであり、時代の寵児となった作家の一人である。

しかしギブスンによるその脚本は採用される事なくお蔵入りとなり、別の脚本家による脚本で映画は完成することになった(脚本から採用されたのは映画に登場する囚人の頭の後ろのバーコードだけだった)。そして出来上がったのがあの作品だったことを考えると、「ギブスン脚本だったら、もっとどうにかなっていたんじゃないか」と当時のSFファンは歯痒い思いをしたのではないだろうか。なぜならオレもその一人だったからである。

そのギブスン脚本による幻の『エイリアン3』が、なんと映画公開から20年以上も経ってコミック化されたのである。こういった企画が通るというのも、きっと本国でも「ギブスン脚本の『エイリアン3』がどんなものだったのか知りたい、観たい!」というファンがいまだに多かったからなのではないだろうか。

そしてなにしろギブスン版『エイリアン3』である。このギブスン版では、『2』で惑星LV-426から脱出したリプリー、ニュート、ヒックス、ビショップ4人全てが生存している、という設定から始まるのだ。ここからして身を乗り出してしまうではないか。物語はざっくりこんな感じ:

西側陣営と先進人民連合(通称UPP)の間で冷戦が続く未来の深宇宙。ウェイランド・ユタニ社直属下の前哨基地、アンカーポイントに1機の輸送船がたどり着く。4年前、惑星LV-426の調査に向かったきりだったスラコ号だ。時を同じくして、ウェイランド・ユタニ社の科学者2名も基地に到着する。核戦争のリスクを取ってまで彼らが狙うものが、スラコ号にはあった…。

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この作品では「西側陣営と先進人民連合との冷戦」という対立の構図が物語の根幹を成しており、その中で「宇宙最悪の生物兵器エイリアン」を巡る虚々実々の駆け引きと、その後お待ちかねエイリアン大発生による血塗れの踊り食い大会が展開することになる。とはいえリプリーを始めとする『2』からの生還組はビショップを除き全く、あるいはほとんど活躍しない。それとは別の主人公、登場人物が活躍するストーリーとなっているのだ。だから「リプリーVSエイリアンの戦い再び!」と期待すると肩透かしを食うだろう。

そもそも、「冷戦構造」という対立の構図は持ち込まれはすれ、エイリアンの恐ろしさを甘く観ていた連中によるヒューマンエラーの連続が最終的な惨劇を生み出すことになる、という話の流れは『1』や『2』とさして変わらないものであり、かといって『1』『2』とは別の新機軸や新たな展開が持ち込まれることも無く、残念ながらこのギブスン版『3』、このまま映画化されてもそれほど面白い作品になったかどうかは疑問だ。これだったら実際に映画化された「収容所惑星における決死の追いかけっこ」が主軸だった『3』のほうが少なくとも設定の新奇さにおいて勝っている。それと、グラフィックのほうも、ちょっと想像力が足りないような気がする。

とはいえそれでも、その後公開された『プロメテウス』や『エイリアン:コヴェナント』も含めて「エイリアン・ワールド」を愛して止まないオレの様な人間にとっては、このギブスン版『3』は避けて通れない作品であったし、「存在したかもしれないもう一つのエイリアン史」としてこの作品は重要な位置にある。結果的に内容としてはイマイチではあったが、エイリアンを愛するエイリアン民のコレクターズ・アイテムの一つとして加えてもいいのかもしれない。

なおこのコミックは限定カバー版と通常版の二つのカバーで発売されており、値段は一緒なので購入を予定されている方はお好きな方を選べばいいだろう。

エイリアン3:オリジナル・スクリプト 限定カバー版

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エイリアン3 オリジナル・スクリプト

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