冷え冷えとした無機的なディストピア感/映画『アップグレード』

■アップグレード (監督:リー・ワネル 2018年アメリカ映画)

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そう、その映画は最初ノーチェックであった。しかしツイッターで評判を知り、そして予告編動画を観て、なんだか映画に行きたくなったのである。ただしタイトルを忘れてしまい、なかなか思い出せないでいたのだ。これでは映画に行くことができないではないか。ええと確か、『インストール』だったか、『ダウンロード』だったか、『アップデート』だったか、なんだかそんなパソコン用語チックなタイトルだったような気がしたのだが・・・・・・パソコンと言えばそろそろOSをWindows7からWindows10にアップグレードしなきゃならんよなあ・・・・・・んん??そうだ、映画のタイトルは『アップグレード』だああああ!!

というわけで映画『アップグレード』である。近未来、主人公グレイは謎の暴漢たちの襲撃に遭い、妻は殺害、自らも全身麻痺となってしまう。失意の中にあるグレイに、懇意にしていた天才科学者からある提案が成される。それは「STEM」と呼ばれるまだ実験段階の最新AIチップを身体に埋め込むことだった。手術の結果、グレイは体の機能を取り戻したばかりか、常人を超える身体能力を獲得することとなる。さらに「STEM」とは対話可能であり、いち早くアドバイスや情報を得ることが可能となったのだ。こうしてグレイの復讐が始まることとなる。

主人公グレイを演じるのは『プロメテウス』、『スノーデン』、『スパイダーマン:ホームカミング』のローガン・マーシャル=グリーン。製作は『ゲット・アウト』、『アス』のジェイソン・ブラム。監督は『ソウ』、『インシディアス』シリーズで脚本や監督を務めたリー・ワネル

この作品、ジャンル的に言うならハイテク・ホラー、SFサスペンス・アクションといったところだが、もうひとつ、『96時間』や『イコライザー』のような「無双系」の映画だと言うこともできる。なにしろそれまではごく普通の一般市民で、しかも現在は全身麻痺で車椅子生活を強いられていた男が、AIチップを一発ブチ込まれた途端に、目にも止まらぬ動きと正確かつ確実な攻撃を可能にする戦闘マシーンと化してしまうからだ。

その戦闘シーンもちょっと独特で、主人公は棒立ちになったまま手足をひょひょひょいと動かして相手の攻撃を阻止し、その合間を付いて必殺の一撃を加えるといった、実に機械的な動きを見せる部分に「AIが身体を動かしている!」という雰囲気を出させている。この格闘技の「型」とは全く別個な戦闘シーンのあり方が斬新で面白い。また、AIならではの状況把握能力、情報収集能力、危機探知能力も高く、主人公を単に戦闘機械にするだけではなく、暴漢どもを捜査するヒントを次々に与えてゆくのだ。

そしてそんな「機械化された主人公」の敵となるのも実は「戦闘機械へとサイボーグ化された元兵士の集団」なのだ。この機械化人間VS機械化人間の人智を超えた戦いの様子がもうひとつ斬新なポイントだが、ニンジャの如きトリッキーな動きと攻撃方法で戦うがゆえに、『ターミネーター』や『ロボコップ』のようなサイボーグ/アンドロイドが登場し銃撃戦と肉弾戦を繰り出す作品とは一線を画している。さらにそんな「サイボーグ兵士の集団」がなぜ一般市民でしかなかった主人公を襲うことになったのか?というさらなる謎をも生み出すことになり、物語の面白さを深めてゆく。

実際、サイボーグとまでは行かなくともハイテクによる兵士の強化は研究開発され既に導入されているものもあるだろうし、その延長線上にあるのが今作におけるサイボーグ兵士だということを考えると、この物語には暗いリアリティがあることに気付かされる。さらに「STEM」の戦略戦術が次第にヒートアップしてゆく様は、現実に学習型AI同士にゲームをさせた結果、最後には非常に非人間的な殲滅戦と化していった、という何かのニュースを思い出させた。映画『アップグレード』は、そういった冷え冷えとした無機的なディストピア感が横溢する作品でもあった。