日本暴力団株式会社〜映画『アウトレイジ ビヨンド』

アウトレイジ ビヨンド (監督:北野武 2012年日本映画)

  • 北野武やくざ映画アウトレイジ ビヨンド』を観てきました。
  • 前作『アウトレイジ』はアナクロニズムの塊としか思えない暴力団員の描写とトゥーマッチとも言える暴力描写と笑っちゃうほど繰り返される「テメーバカヤローコノヤロー!」という怒号の掛け合いの連続で、これってビートたけし一流のギャグ映画なんじゃ?と思ったほどでしたが、逆に言うと暴力描写と怒号の応酬ぐらいしか記憶になくて、この続編が「前作で死んだはずのビートたけし演じる主人公が生きていた!」という粗筋だと聞いたときは「ええっと前作で主人公って死んでたんだっけ?」と一瞬考えちゃったほどでした。
  • さて今作では前作ほどのきっつい暴力描写と怒号の応酬は見られません。それなりに暴力描写はあるんですが、随分と大人しくなっていて、レーティング落したのか?と思ったんですが、調べてみたらレーティングは前作と同じR15+指定でしたね。
  • ビートたけし演じる主人公・大友も前作と比べたら随分枯れてしまい、「もうやくざ稼業にはかかわりたくない」なんてやる気のなさぶりを最初からアピールしており、まあそれでも結局やくざ同士の抗争に巻き込まれてぶっ殺されそうになったりぶっ殺したりしてるんですが、あまり物語の中心にはおらず、いい所に出てきて美味しい役かっさらう、といった感じでしたね。
  • そういった部分で前作ほどの狂騒的なトゥーマッチぶりは影を潜めてはいるんですが、クライマックスに近づくほどにじわじわと屍累々となってゆく物語にはやはり北野武ならではのタナトスの表出を感じました。
  • 北野武はこれまでにもやくざ映画を撮り続けていましたが、そこには北野なりの諦観や虚無感、といった作家性が漂っていたんですね。しかし『アウトレイジ』はもっと大衆受けしやすく分かりやすい馬鹿馬鹿しいまでの暴力描写で全てを牽引していたんですね。所謂"受ける映画"を撮ろうとした結果なのでしょう。しかし監督・北野武自身は自分の作家性、といったものへの未練が捨てがたく、この『アウトレイジ』も3部作になる予定らしいのですが早くももう「やくざ映画飽きた」とか漏らしていて、そういった部分で前作よりもちょっと引いた演出になってしまったのかな、とも思えました。しかし映画それ自体は前作には無いじわじわとした緊張感に満ちていて、北野武にはつまらない芸術映画なんか撮らないでこっちの方向でもっとはっちゃけて欲しいんですけどね。
  • それと映画を観ていて感じたのは、やくざ組織同士の腹の探りあい、足の引っ張り合い、騙しあい、組織への忠誠の名を借りた強要、恫喝、不信、懐疑、虚偽、これら全てが、業績の名の下にしのぎを削る日本によくある会社組織のありかたとなーんも変わらんじゃないか、ということでした。やくざなんかよりやくざみたいなブラックな企業のほうが日本には沢山存在し、やくざなんかよりも悲惨で悪どい被害を与えてるんじゃないか、と思えてしまいましたね。これら"日本暴力団株式会社"の数々は拳銃ぶっ放して人殺しをしたりはしませんが、精神を病んじゃったり挙句に自殺しちゃったり過労死する人は相当の数がいるわけで、さらに実際に物理的な害毒流しちゃったりしている企業だってありますし、そう考えると『アウトレイジ』をはじめとするやくざ映画の漫画みたいなやくざの皆さんよりも、法律的にグレイなゾーンで嫌らしいことをしている会社企業の連中のほうが、現実にはずっと多いんだろうな、とちょっと思いましたね。そういった意味で『アウトレイジ ビヨンド』は日本の社会のある種の戯画化されたものだといえるのかもしれません。


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