
Broken Rage (監督:北野武 2025年日本映画)
北野武が監督・脚本を務め、ビートたけし名義で主演も果たしたAmazon Prime Video配信のコメディ作品。60分程度の中篇で、前半である殺し屋の行動をシリアスに描き、後半でそのシチュエーションをコメディタッチで描くというもの。出演に浅野忠信、大森南朋、中村獅童、白竜、劇団ひとり。まあ北野武がビートたけし主演で描いたコメディ映画というとどれもこれもとことんナンセンスかつ脱力的なものばかりで、面白いかどうかというよりもただただひたすら下らないことだけを使命として作られており、今作もそこに一片のブレはなかった。ただ、今までたけしのコメディ映画はしょうもないなりにそこそこ楽しんで観ていが、この作品に関しては少々冴えないなあと思わされてしまった。年齢的にギャグに瞬発力が無くなったのもあると思うが、TV配信作品ということでPC的な部分も含め手加減した部分もあったのかなあ。そういった部分で映画というよりもバラエティ番組のようなこじんまりとした印象であり、不完全燃焼感が強かったが、北野監督にとっては実験作的な扱いのようで、今後新たな展開を見せるのかもしれない。
ザ・キル・ルーム(監督:ニコル・パオネ 2023年アメリカ映画)
『パルプ・フィクション』のユマ・サーマンとサミュエル・L・ジャクソンが出演したコメディと聞いてホイホイと観始めたのだが、これが結構引き込まれて観てしまった。物語は零細画廊が経営難を脱するため、ギャングのマネーロンダリングに手を貸してしまうというものだが、その方法というのが実に興味深いのだ。ギャングの手下が適当に描いた絵を”新人画家が描いた”ものとして画廊が買い取り、それが売買されたことにして再度ギャングに金を渡すという方法なのである。これは実際にあった方法だったりするんじゃないだろうか。面白いのはその”適当に描いた”筈の絵の内容が外部に漏れ、”高額で取引されている”というその一点から画壇の注目を浴び、絵画コレクターたちがこぞってその絵を買いたいと群がってくる部分だ。その絵自体はポロックやリヒターの模倣みたいな抽象画なのだが、描いたギャングの殺し屋にそこそこ絵心があったばかりになんとなく芸術的に見えてしまう、というのがまた可笑しい。最初みみっちい犯罪で始まった物語は、ここで”芸術作品の価値”という実体のないものに恣意的な価値をつけ、さらにそれを釣り上げてゆくアート業界やアート市場というものに対する皮肉を描いたものへと発展してゆくのである。そういった切り口が面白かった。
ドライブアウェイ・ドールズ (監督:イーサン・コーエン 2024年アメリカ映画)
レズビアン女子がまだレズに目覚めていない女友達を連れ、レンタカーで全米レズセックスやりまくり旅行に出かけたが、その車にはギャングのブツが隠されてた!?という”多様性”コメディ。実はオレ、主演のマーガレット・クアリー(出演作に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『哀れなるものたち』等)が大のお気に入りという事もあって観たんですが、これが結構なみっけもんでした。さらに監督がコーエン兄弟の片割れジョエル・コーエンで、そういった部分もあってか軽妙洒脱でオフビートでちょっとぶっ飛んだところのあるコメディなんですね。なによりマーガレット・クアリーのあっけらかんとした肉食女子ぶりが実に楽しく、下ネタ満載なのにも関わらず全然いやらしさを感じさせないんですよ。彼女の行方を追うギャング連中もお約束のようにマヌケ揃いで、お馬鹿な物語をさらに混沌へと叩き落します。で、最後はなんだかよく分かんないけど真実のレズ愛に目覚めるとかすっごいド下品な大ネタを振ってくるとかやりたい放題で、やっぱりたまにはこういったとことんしょうもない映画を観るべきだなという認識を新たにしましたね。
レッド・ドラゴン レクター博士の沈黙 (監督:マイケル・マン 1986年アメリカ映画)
トマス・ハリス原作・ジョナサン・デミ監督による映画『羊たちの沈黙』(1991)の前日譚を描く『レッド・ドラゴン』という作品があるが、これは2バージョン存在する。ひとつは映画『羊たちの沈黙』の大ヒットにあやかって2002年に製作公開された映画『レッド・ドラゴン』、もうひとつは『羊〜』公開以前の1986年に『刑事グラハム/凍り付いた欲望』というタイトルで公開され、その後『レッド・ドラゴン レクター博士の沈黙(”レク沈”)』にタイトル変更しビデオ化されたこの作品だ。2002年版『レッド・ドラゴン』は既に観ていたので、同じ原作の『”レク沈”』を観る必要はないだろうと今まで視聴していなかったが、SNSでちょいと話題になっていたのと調べると監督が『ヒート』のマイケル・マンだと知り興味を覚え観てみることにした。今観るといかにも”80年代刑事ドラマ”的な古臭さを感じるし、音楽にしてもファッションにしてもかなり野暮ったいのだが、それでもじわじわと引き込まれるものがあった。これは編集がなかなかに優れていたことや、マイケル・マン流のスタイリッシュさが顔を覗かせていたせいなのかもしれない。物語自体もサイコサスペンスの走りとでもいうべき斬新さがあり、残虐な事件を主人公がプロファイルしてゆく過程は十分にスリリングだった。なにより主演を務めたウィリアム・ピーターセンのクールさが実によいのだ。犯人のサイコ野郎やちょっとだけ顔を出すレクター博士(※アンソニー・ホプキンスではない)もそれぞれに味があってよかった。



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