劇場再建を夢見る人々の群像劇〜映画『幸せはシャンソニア劇場から』

■幸せはシャンソニア劇場から (監督・脚本 : クリストフ・バラティエ 2008年 フランス/ドイツ/チェコ映画)


1936年のパリを舞台に、閉館に追い込まれたミュージック・ホールを立て直そうと奮闘する人々の姿を描いた群像劇。インタビューで監督が"シャンソンの曲をもとに物語を構成した"と言っているように笑いあり涙ありの人情ドラマであり、そして舞台での唄と踊りが華やかな音楽ドラマでもある。その時代背景には第2次世界大戦前夜の不穏な空気と長引く不況、共産主義ナチスの台頭が見え隠れし、そんな激動の時代で生きる人々の点景を描くことで物語により深みを持たせている。
どの登場人物も生活感に溢れ、生き生きと下町のパリを闊歩する。彼らの織り成すドラマも様々で、貧乏のあまり子供を取り上げられた父親、女優デビューを目指して町を訪れたヒロイン、虐げられた大衆を鼓舞する青年、引き篭もりの指揮者、町の顔役の暗躍、これらのドラマがそれぞれに絡み合いつつ、シャンソニア劇場の再建と成功を中心に大きなうねりとなって物語られてゆくのだ。人々の夢や希望、喜びや悲しみ、ささやかな日々の営み、それを描く群像劇ならではのダイナミックな語り口調は、自然と登場人物たちに感情移入させ、次第に彼らと一緒に泣いたり笑ったりしている自分に気付かさせられるだろう。
そして後半の、再建したシャンソニア劇場での華やかなレビューが楽しい!美しい!人間ドラマだけだと重くなりがちな物語を、歌と踊りのレビュー・シーンが、軽やかで明るいものに変えてくれる。その中でやはり特筆すべきは新人歌手ドゥース(ノラ・アルネゼデール)の美しさとその歌声だろう。声質が硬いので、とても上手い、というわけではないけれども、パリへの憧れと愛を歌った彼女の歌は、映画の中で何度も繰り返され、それは作品それ自体のテーマともなってゆくのだ。脇を固める出演陣も、どれも実にイイ顔をした俳優ばかりで、どの出演者もオレは大好きになってしまった。
そしてなによりも映像が美しい。70年以上前の時代であり、不況下でもあるはずのフランス下町の町並みや人々の生活が、とても豊かで美しく見えてしまうのは映像のマジックだろうし、実際に全てがこの通りだったはずもあるまいが、それでもなぜか、フランスは豊かな国なのだなあ、と思わされてしまう。それは建物の造りや、様々な物が溢れた住居、洋服、生活様式から感じさせられるものなのだけれども、同じ時代なら、日本はもっと貧乏だったんだろうなあ。まあ隣の芝生といってしまえばそれまでだが、かつて高度経済成長の頃に、日本がアメリカの豊かさに憧れたように、こういったフランスの文化の芳醇さにも、ちょっとだけ憧れを覚えてしまう。
しかしこれ、日本でリメイクしたらどうなるのかな。第2次世界大戦前後の時代の、浅草や上野あたりの演芸場閉鎖で、それを再建させようとする人たちの物語、ってことになるんだろうけど、案外松竹新喜劇あたりでそういうシナリオの舞台があったりするかもね。ちょっと情緒的でベタベタになりそうな気がするけど、人情物の得意な日本人なら、意外と面白い作品になったりしてね。

■幸せはシャンソニア劇場から 予告編


幸せはシャンソニア劇場から [DVD]

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映画「幸せはシャンソニア劇場から」オリジナル・サウンドトラック

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