映画『フローズン・リバー』はハードボイルド主婦の物語だった!

フローズン・リバー (監督:コートニー・ハント 2008年アメリカ映画)


雪に閉ざされたアメリカ・カナダ国境を舞台に、シングルマザー二人が極貧の生活から抜け出すため密輸ビジネスに手を染めちゃう、というハードボイルド主婦ストーリーだぜ!そして先のサンダンス映画祭で審査委員長のタランティーノが絶賛したという曰く付きの映画なんだ。

主婦の一人、白人女のレイ(メリッサ・レオ)はギャンブル狂いの夫に生活費も新居購入費用も持ち出されたまま蒸発され、二人の子供を抱えて大わらわだった。彼女はあるきっかけから先住民モホーク族の女ライラ(ミスティ・アパーム)と知り合うが、ライラもまた夫を亡くし子供を義理の母に奪われ、貧しい生活を余儀なくされていた女だった。そして二人はマフィアの手を介し、治外法権となっているモホーク族居留地を隠れ蓑に、密輸と密入国に手を貸すこととなってゆく。カナダとアメリカの国境となっている凍った川、ここを命懸けで渡りながら…。

どこまでも雪と氷で覆われた国境の町の様子がまず陰鬱だ。主人公となる二人の女の貧苦がまた見ていて寒々しい気持ちにさせるんだ。レイは子供に食べさせるものがポップコーンしかなく、借金取りは今日も不機嫌な顔してやってくるんだ。一方ライラは教育も低く、手狭なトレイラーハウスで一人暮らしている。二人は切羽詰って犯罪に手を出すことになるが、そのおおもとには貧困と先住民族の社会的待遇の低さがあったりするんだよな。そして二人は「みんなビンボが悪いのよ!」とばかり犯罪に走っちゃうわけだよ。

この映画で面白いは、アメリカ・カナダ国境にある先住民居留地、そしてそこで暮らす先住民たちの生活を描いたところだろうな。最初にも書いたけど居留地自治区であるために治外法権になっていて、アメリカで禁止されているカジノ賭博*1が堂々と行われていたりするんだね。そういやTVドラマ『ツイン・ピークス』でもカナダ国境のカジノが出て来たけど、そういうことだったんだな。こういったカジノを経営させることで収入の少ない先住民の生活を向上させようという目的もあるらしいが、同時に治安の乱れも発生してしまうんだね。

映画はこういった社会問題を軸に描かれるが、基本はやっぱり主婦二人のギリギリのハードボイルド・ドラマなんだ。だいたい冒頭から主人公レイは車をかっぱらったライラにブチ切れてズドンと一発銃をぶっぱなすという、やる気満々のビッチぶりを見せるけど、旦那は逃げるわ金はないわ子供にメシ食わせにゃならんわで、もう世の中なんもかんもファッキンな訳なんだよな!なりふり構ってなんかいられないんだよ!ライラはライラで、自分の子供を取り戻すことができないという絶望の中で生きている。そして二人は犯罪を犯すが、それもひとえに子供を思う母親の気持ちからなんだ。派手なアクションやサスペンスは無いんだが、追い詰められた母親たちの辛さ切なさがヒリヒリと伝わってくる映画だったな。