海老ペンとはなんだったのか

部屋でとあるアクション映画を観ていたのである。そしてこんなシーンにぶち当たったのだ。

敵との戦いで大怪我を負い血塗れとなった主人公が、雑貨倉庫の如き場所に退避し、そこにいた協力者にこう叫ぶ。

「海老ペンをくれ!」

……海老ペン?海老がペンになっているのか?

その時オレの頭に浮かんだのはこのような如きものである。

すると協力者は確かにペンの如きものを取り出して主人公に渡す。

しかしそれは「ペンの如きもの」ではあっても決して「海老がペンになっているもの」ではないのである。

その「ペンの如きもの」を受け取った主人公はそれを太腿にぶっ刺し、ぶはあ!と呻くとこう呟く。

「このアドレナリンが効くんだよ!」

いったいなんなのだ。海老ペンとは海老がペンになっているもののことではなく、そのペンをぶっ刺すと海老みたいにぴちぴちと体が蘇るペンのことなのか?

訳が分からなくなったオレは画面を一旦止め、スマホで「海老ペン」を検索する。

すると出てきたのはこれである。

「えびペン」。海老をはんぺんで和えて揚げたおつまみである。

おおこれは美味そうだ。ビールがすすむこと間違いなしだ。今度作ってみようか。

.......。

だが、映画の主人公が太腿にぶっ刺したのはあくまで「ペンの如きもの」であって、「海老をはんぺんで和えて揚げた美味しそうなおつまみ」では決してないのである。

オレはさらに混乱した。頭を抱えながら再度検索する。

すると次に出てきたのはこれだ。

「エビペン」。釣り具の総合メーカー「ピュア・フィッシング・ジャパン」様謹製の海老型ルアーである。

おおこれは魚の食いつきのよさそうな優れたルアーのようですね。お父さん今日も大漁だよ!

.......とはいえなにしろ主人公が手に持ったのは「ペンの如きもの」であり、断じて「魚の食いつきのよさそうな優れたルアー」ではないのである。

いったいどうなっているんだ。軽い眩暈を覚えながらもう一度検索してみる。

すると出てきたのはこれである。

「エピペン」アナフィラキシーになった時に使用するアドレナリンの自己注射キットのことだという。

「おお、これだ!これのことだったんだ!」オレは膝を叩いて頷いた。

主人公は「海老ペン」ではなく「エピペン」と言っていたのだ。満身創痍で体が弱っているところを「エピペン」によってアドレナリン注入することで気付け代わりにしようとしていたのだ。

アナフィラキシーになった時に使用するアドレナリンの自己注射キット「エピペン」。オレはまた一つ賢くなり、大いに安心して引き続き映画を観始めたのだった。

(おしまい)