アメリカから逃走するマイノリティーたち〜 映画『LOGAN/ローガン』

LOGAN/ローガン (監督:ジェームズ・マンゴールド 2017年アメリカ映画)


映画『X-MEN』シリーズはなんとなくだいたい観つつも、正直なところそれほど好きなシリーズではない。なんかあのコスチュームが……(ゴニョゴニョ)。とはいえスピンアウトである『デッドプール』は相当好きな作品だった。バカだからである。そもそもスーパーヒーロー映画は無意味に深刻ぶり過ぎていけない。
そしてウルヴァリンを主人公としたスピンアウト作品もそれほど嫌いじゃない。『ウルヴァリン: X-MEN ZERO』は話がストレートでよかったし『ウルヴァリン: SAMURAI』は舞台となった変な日本が実にサイコーだった。
今回観た『LOGAN/ローガン』はヒュー・ジャックマン演じるウルヴァリンの最終作なのらしい。まあこの辺は実はどうでもよかった。それよりも映倫区分がR15+だというではないか。おお。結構バイオレンスしまくってくれるのだろうか。その辺りを楽しみたくて今回この映画を観たというわけである。
映画が始まり登場するのは人生に絶望し身体を壊しアル中と化したウルヴァリンと老衰し訳の分からないことを喚きまわるプロフェッサーXである。おまけに舞台となる2029年においてミュータントはほとんど死滅しており、新しいミュータントも25年間生まれていないという。しかしここで謎の組織に追われるミュータント少女が現れ、ウルヴァリンが彼女を安全な場所に送り届ける役目を負う。しかし謎の組織の追撃は凶暴かつ残忍、ウルヴァリン一行は満身創痍で旅を続けることになるのだ。
物語設定からしていきなりの塩展開である。ウルヴァリンといえば不死身の身体を持つ男であるが、これがびっこひいいてノソノソ歩いているんである。冒頭チンピラと戦うシーンもあるが微妙に弱い。体力ばかりではなく気力もなく、どうやら自殺まで考えているらしい。一方のプロフェッサーXと来た日にゃあヨボヨボの爺さんなばかりか超能力を押さえるために薬漬けであり、頭もどうやらボケ気味である。今まで『X-MEN』として熾烈な戦いを潜り抜けてきた彼らの姿はもうない。彼らの人生に待っているのはただ"死"のみなのだ。もはや彼らは「最期のジェダイ」ならぬ「最期のX-MEN」なのだ。
そこに現れた少女ローラはウルヴァリンと同じ能力を持つミュータントだ。実は彼女は謎の組織の実験によって生まれた存在なのらしい。子供ながらにこれが相当に強い。追いつめられたら殺人など厭わないほどに凶暴性を発揮する。彼女を追う謎の組織がこれまた凶悪だ。幾多の傭兵を抱えローラと彼女をかばうローガンを亡き者にせんと執拗に追撃してくる。このウルヴァリン一行と謎の組織が衝突し、生首かっ飛びもがれた手足が宙を舞う戦闘シーンは残酷描写満載で実に楽しめる。流石R15+だけのことはある。
どちらにしろ物語のトーンは相当に暗く絶望的だ。この作品はどうしてこうも悲惨で絶望的だったのか。そもそも『X-MEN』という映画シリーズはミュータントという鬼っ子のような存在に社会的マイノリティ―の姿を重ね合わせたものだという。1作目から殆どのシリーズ作品を監督したブライアン・シンガーはゲイであることをカミング・アウトしているが、彼の中にあるマイノリティーとしての心象が反映されたシリーズであるともいえる。
しかし、マイノリティーたちが彼らの能力を活かし正義の戦いを繰り広げた『X-MEN』だったにもかかわらず、この『LOGAN/ローガン』においてマイノリティーであるミュータントたちは既に死滅しているか死ぬ運命にある。穿った見方をするならこれはマイノリティ―差別をあからさまにした現トランプ政権のアメリカに対するマイノリティーたちの絶望を現してはいまいか。
物語後半、ローラたちは謎の組織を振り切るためアメリカ国境を越えようとする。国境を超えさえすれば安心だと言いきる。しかし圧倒的な兵力を誇る武力組織が国境を超えた程度で追撃を諦めるとはどうにも思えない。しかし、これがトランプ政権のアメリカなのだとしたら、そのアメリカの激化するヘイトクライムからなのだとしたら、越境は当然有効なのだ。映画『LOGAN/ローガン』は、アメリカに住むマイノリティーたちの絶望と希望を描こうとした作品だったのかもしれない。