江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間 (監督:石井輝男 1969年 日本映画)

■奇形だ!奇形だ!お前は奇形になるのだ!
記憶を失ったままキチガイ病院に入れられていた主人公・人見広介(吉田輝雄)は、あるきっかけから北陸の旧家に自分と瓜二つの男が存在していた事を知る。そして主人公はその男の父親・菰田丈五郎(土方巽)が沖の孤島で謎の理想郷を築いていることを聞きつけ、失われた記憶を取り戻す為に、その島に乗り込むことにする。しかし、その島には…。
さてここでクイズです!《その島》はいったいどのようなことになっていたのでしょう!?
1)ドクター・モローと呼ばれる男が遺伝子操作で動物を人間に変える実験を行っていたのである!
2)マイ○ル・ジャ○ソンが10歳以下の子供達を集め、島一杯に作られた巨大遊園地で遊んでいたのである!
3)”将軍様”と呼ばれる男がテポドンにまたがり《喜び組》という名の女達をはべらせ餓死寸前の人々を支配していたのである!
4)丈五郎の狂った妄執によって奇形人間に改造された人間達の住む、恐怖奇形人間の島だったのである!
さあ正解はどれでしょう!?

■日本を奇形にしてしまえ !
いやー。……。なんだったんでしょうこれ。取りあえず怪作・珍作・モンド・カルト映画ということでいいんではないでしょうか。なにしろ「これを観たオレはいったいどうしたらいいんだろう」と途方に暮れる映画でありました。原作は《江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』と『孤島の鬼』をベースに、『屋根裏の散歩者』などの諸作品をミックスしたストーリー*1》ということなのですが、実はオレ、江戸川乱歩を読んだ事のない人間なんですよ。探偵小説系って苦手だったのよ。SFの人だったから。そんな映画を何故今DVDで観ているのかというと、この作品、1969年製作なんですが、タイトルに堂々と【奇形人間】なんて謳っちゃってるのを見れば分かるように、今の日本ではソフト化が不可能な”幻の映画”扱いだったんですね。それが最近アメリカで発売され、この日本でも話題になり、逆輸入という形で購入できるようになったというわけなんです。元の言語も日本だからそのまま観られますからね。しかも相当に売れているらしい。そんな映画をオレが観ないわけにはいきません。

もう初っ端から、波飛沫の舞う海岸で土方巽が顔白塗りにして振袖着て、くねくねと暗黒舞踏しまくってます!怖いです!目が逝っちゃってます!その後キチガイ病院で半裸の女達が「ヒャーハハハッ!」などと笑っています!そして登場した主人公は映画最後まで眉間に皺寄せずっと力みまくった演技をしています!ほらサーカスの少女の登場だ!北陸に飛んでからは坊さんコンビがなんだかコントを演じてます!なんでコントなんだよ!旧家では主人公、他人に成りすまして人の奥さんや愛人とヤリまくりです!ああ!なんだかムゴイ特殊メイクの人が出てきて「ヒヒヒーッ!」とか笑ってる!そして島に渡ってからは突っ込みどころがありすぎてここでは全部書けないぐらいです!しかし一つだけ突っ込ませてください!なんで《恐怖奇形人間の島》で金粉ショーやってるんだよッ!で、終盤になっていきなり明智小五郎登場!ひえええっ!お前今の今まで何やってたんだよ!そしてラスト、涙が出るほどせこい衝撃映像があなたの心臓を鷲掴み!ねえ監督ここは笑う所ですよね?ね?

…とまあこんな書き方から内容は察してください。なにしろ何でもアリです。監督の「凄いだろ!?これ凄いだろ!?凄いもんをいっぱい詰め込んだからとっても凄いに決まってるんだ!」という雄たけびが聞こえて来そうです。確かにある意味凄い映画ですが、どういう意味でと問われてもあまり答える気にならない映画ではあります。しかしここまでアホアホだと逆に爽快でさえあります。

■そしてみんな奇形になった
ただ一つ興味深かったのは、原作の江戸川乱歩という人物の、過去というものに対する拘りようです。隠された過去、忌まわしい過去、呪われた運命、抗えない運命、そういったものに乱歩という人は常に捕らわれていたんでしょうか。出生というそもそもの根本の時点で間違っていたものはもう何一つ変えようが無い、というこの妄執は、乱歩の生きていた時代に一般でも知られるようになった「遺伝学」によるものだという話をどこかで読んだ事があります。通俗化され意味を取り違えられた遺伝学の理解は、つまりキチガイの家系に生まれたものはキチガイになり、奇形の家系に生まれたものは奇形になるというものです。

個人の意思や生き方などには一切関係なく、問答無用に出生とセットでついて回る”不幸”。これこそが江戸川乱歩の恐怖したものであり、作品についてまわる猟奇趣味の元なのだ、とそこでは言っていたような記憶があります。この《恐怖奇形人間》で奇形という”予め定められた不幸”を、”高度な外科手術”という科学でもって”人為的に再分配”するという考え方は、言ってみれば”運命”というものへの復讐であり、さらに”遺伝”という”自然”に対する科学的な逆襲=合理的な人間性の回復だったのではないか、とちょっと思いました。(随分前に読んだ本だったので勘違いだったりするかもしれませぬ。)


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