アンソロジー『どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集』を読んだ

■どこにもない国―現代アメリ幻想小説集/柴田元幸=編訳どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集

「奇妙な味」の物語が好きである。江戸川乱歩が作ったと言うこの言葉は、ミステリともホラーともSFともつかない、当然主流文学にも当てはめることの出来ない、どこか不可思議で不条理な物語に与えられる名称である。

『どこにもない国―現代アメリ幻想小説集』は翻訳家・柴田元幸氏が編訳したアンソロジーとなるが、サブタイトルにあるように現代アメリカ作家を中心とした幻想小説を集めたものとなっている(ただし柴田氏があとがきでネタバレしているが、決して「アメリカのみ」ということにはなっていないらしい)。さらに幻想小説とは謳っているが、ファンタジーという部類のものではなく、むしろ「奇妙な味」に分類されるような不可思議で不条理な物語の数々が収められている。

まず冒頭は『地下堂の査察』エリック・マコーマック。実はこのアンソロジー、以前マコーマックの長編『雲』を読み、この作者の作品をもっと読みたくなって入手したのだが、この『地下堂の査察』は暗く異常であり、かつ不気味で不条理感の溢れる傑作だった。続いて『Do You Love Me?』ピーター・ケアリーは「地図から抜け落ちていた区画が消失する」という幻想譚だが、理由も原因も描かれない部分に不条理味が溢れる。『どこへ行くの、どこへ行ってたの?』ジョイス・キャロル・オーツはこのアンソロジーのもうひとつのハイライト。主人公女性をしつこく誘ってくる謎の男たちから立ち上ってくる暴力の臭いと異様な雰囲気がじっとりと恐怖を醸し出すホラー。

『失われた物語たちの墓』ウィリアム・T・ヴォルマンはE・A・ポーの作品をパッチワークしながら晩年のポーを描く作品だがオレには少々観念的過ぎるように思えた。『見えないショッピング・モール』ケン・カルファスイタロ・カルヴィーノ『見えない都市』へのオマージュに彩られた可笑し味のある不条理ショピングモールのお話。

『魔法』レベッカ・ブラウンは「彼女」とだけ呼ばれる封建的な女王に囲われた女性の物語。パッと読んでしまうといわゆる「百合モノ」なんだが、「彼女」を「彼」と読み替えると途端に不気味になる。『雪人間』スティーヴン・ミルハウザーは特に超常的なものは描かれないけれども奇妙な幻想譚として楽しい。

そして『下層土』ニコルソン・ベイカー。ある意味直球のホラーなんだが、なんとこれが「ジャガイモが襲ってくる!?」というトンデモな発想を元にしており、怖いのか変なのか訳が分からないのがいい。『ザ・ホルトラクケリー・リンクは「聞こ見ゆる深淵」なる異次元(あの世?)が現れゾンビが闊歩しはじめた世界を描くが、このゾンビ、人を襲う訳でもなくただウロウロしているだけで、そんな異常な状況の中にありながら緩い日常を過ごす若者たちが主役となる。奇妙な物語ではあるがカタルシスには乏しい。

どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集

どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集

  • 発売日: 2006/06/01
  • メディア: 単行本