今回も壊して殺して喰うよ!/映画『ヴェノム:レット・ゼア・ウィル・ビー・カーネイジ』

ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ (監督:アンディ・サーキス 2021年アメリカ映画)

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食べるの大好き・壊すの大好きな地球外生命体ヴェノムと、そのヴェノムに取り憑かれ嫌々共生しているおっさん・エディとの愉快痛快二人羽織りの日々を描くマーベル・ダークヒーロー映画の続編です。エディを『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディが演じ、その他ブロークバック・マウンテン』のミシェル・ウィリアムズ、『スリー・ビルボード』のウッディ・ハレルソン、「007」シリーズのナオミ・ハリスが参加、監督は『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラム役で有名なアンディ・サーキス

【物語】ジャーナリストとして未解決事件の真相を追うエディは、刑務所で死刑囚クレタス・キャサディと再会する。クレタスは猟奇殺人を繰り返したシリアルキラーで、死刑執行が迫っていた。エディに対し異様な興味を示すクレタスは突如として彼の腕に噛み付き、その血液が人間とは異なることに気づく。そして死刑執行の時、クレタスはついにカーネイジへと覚醒する。

ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ : 作品情報 - 映画.com

お話は例によって体に取り憑いたヴェノムとエディとが毎度くだらない諍いを起こし、喧嘩するわモノは壊すわの大騒ぎを演じるところから始まります。トムとジェリー仲良く喧嘩しなの世界です。しかし喧嘩するほど仲がいいのかどうかは分かりません。うがった見方をするならヴェノムとエディとは人間の表層真理と深層心理の対立、『ジキル博士とハイド氏』の如き一人の人間の中の相反する善と悪の二面性、なんて言い方もできますが、実のところそんな深いものではありません。「自分の中に何かいる」と思い込んでいるおキチガイ様のその「何か」を具象化したオハナシという事もできるかもしれませんが、やっぱりそんなヤヤコシイものでもありません。

じゃあ何かというと「なんだかグチャグチャドロドロしたものが体からドバドバビョーンと出てきてあんなことやこんなことを仕出かすビジュアルの気持ち悪い楽しさ」がこの物語なのだと思います。今回はヴェノム遺伝子(?)を受け継いだ死刑囚クレタスが真っ赤なヴェノムことカーネイジに変態しヴェノムとの戦いを繰り広げますが、つまりはグチャドロのドバドバビョーン同士がグチャドロしあいドバドバビョーンしあう、という、得も言われぬグロい映像が今回も展開します。しかしグチャドロ同士ですからぶん殴ろうが切り刻もうがダメージがあるんだかないんだかよく分からない上に、そもそも痛覚さえ無さそうですから始末に負えず、戦いが戦いになってないんではないかと思えてしまいます。前作はそれでも謎の生命体シンビオートにまつわるサスペンスが存在しお話を引き締めていましたが、今回はそんなサスペンスも希薄です。

その辺りの煮え切らなさを補うのが人間関係というか人間ドラマということになるのでしょう。前作で破局したエディとアンとは未だ腐れ縁状態だし、アンの新恋人ダンはそんな二人に嫌々付き合わされ、その変な三角関係が危機的状況の中で微妙な可笑しさを醸し出しながら進んでゆきます。また、今回の悪役クレタスと幼馴染であり超能力を持った女性フランシスとの『ナチュラル・ボーン・キラーズ』の如きピカレスク・ロマンスも物語に異色な華を添えているでしょう。特にフランシスことシュリークは演じるナオミ・ハリスの熱演もあって十分にキャラが立ったヴィランであり、この作品だけの登場では勿体ないように感じましたね。それとエディとヴェノムとの関係を知る雑貨屋の東洋人のおばちゃん、この人もイイ味出してたなあ。まあ全体的に前作のマイナーチェンジどまりの作品のようには思えましたが。