モービウス (監督:ダニエル・エスピノーサ 2022年アメリカ映画)
(※4/7追記:コメント欄で「『ヴェノム』と『モービウス』はマーベル原作でもMCUではなくてソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)作品」という指摘を受けました。勉強しときます!この記事自体は訂正せずそのままにしておきます)
血液の難病を治す治療法により吸血鬼となってしまった男が夜の闇を駆ける。映画『モービウス』はそんなダークなヒーローの姿を描く作品です。もともとはスパイダーマンの敵役として登場するマーベル・コミックのキャラクターで、この作品自体もMCU映画の1作となっています。主人公モービウスを『スーサイド・スクワッド』『ブレードランナー2049』のジャレッド・レト、彼の友人マイロをマット・スミスが演じます。監督は『デンジャラス・ラン』『ライフ』のダニエル・エスピノーサ。
天才医師マイケル・モービウス(ジャレッド・レト)。彼は幼いころから血液の難病を患っていた。 同じ病に苦しみ、同じ病棟で兄弟のように育った親友のマイロ(マット・スミス)の為にも、 一日も早く、治療法を見つけ出したいという強い思いからマイケルは実験的な治療を自らに施す。 それはコウモリの血清を投与するという危険すぎる治療法だった。彼の身体は激変する―― 全身から力がみなぎり隆起した筋肉で覆われ、超人的なスピードと飛行能力、 さらには周囲の状況を瞬時に感知するレーダー能力を手にする。 しかし、その代償として、抑えきれない“血への渇望”。まるで血に飢えたコウモリのように。
マーベル作品には科学的・化学的なナニカで体質が変化しスーパーパワーを持ってしまうヒーローが多く登場します。スパイダーマンしかり、ハルクしかり、キャプテン・アメリカしかり。ヴェノムなんかもこの範疇でしょう。このモービウスも難病治療のため吸血コウモリの遺伝子を人間のものとアレコレした結果生まれた超人です。しかしモービウスはスーパーパワーを得た代償として常に血液を飲み続けなければなりません。いわば吸血鬼となってしまったわけですね。この辺りがモービウスを正義のヒーローではなくダークヒーローと呼ぶ所以となるわけです。
こうして吸血鬼を主題としたこの物語は暗く不気味なホラーテイストを帯びることになります。顔つきがグロテスクに変形し、コウモリの超感覚を身に着け、そのコウモリを従えて闇夜を飛ぶ主人公モービウスの姿は不気味極まりないものがあります。アクションシーンでも煙がたなびく様な奇ッ怪なVFXが躍り、重力など無視して高速移動する様などはまるで死霊を思わせます。MCU作品としてはヴェノムと並んで異色なキャラクターであり、ダークヒーローとして今後どのようにしてMCUに絡んでゆくのかが興味を惹かれる部分でしょう。
とはいえ映画単体で言うなら物語性が薄く、強烈なドラマ性に欠けています。モービウスの誕生を描いたこの作品は、まさにその誕生のみを描いており、まるでTVシリーズの1作目だけを見せられたような欲求不満を覚えてしまいます。例えば前述のMCUヒーローであれば、スパイダーマンは青春の情景であったり、ハルクであればジキルとハイドの如き二面性であったり、ヴェノムであれば二人羽織りキャラの楽しさであったりする部分でドラマを牽引しています。しかしこのモービウスでは血を吸う事の苦悩と友情の決裂といった、吸血鬼キャラとして導き出されるであろう平凡なドラマしか生み出していません。なによりモービウスと敵対する存在が地味で魅力に欠けるんです。主演のジャレッド・レトの病んだ演技が見所だったのが救いでしょう。