『ミラベルと魔法だらけの家』は年少者向けの明るい『百年の孤独』だったのか?

ミラベルと魔法だらけの家 (監督:バイロン・ハワード/ジャレッド・ブッシュ 2021年アメリカ映画)

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ディズニー・アニメにはまるで興味が無いオレだが、そもそもディズニー・アニメのほうがオレに興味が無いであろうことは鉄板で確かだ。要するにオレの如き実存をこじらせた小汚い老人はディズニー・アニメのターゲットではないのである。しかしそんなオレがこの間、ディズニーの新作アニメ『ミラベルと魔法だらけの家』を観に行ってしまったのだから、人生は怪奇と猟奇に満ちたものだと言わざるを得ない。

ではそんなオレがなぜ『ミラベル』を観に行ったのかというと、話は単純、なんとこの映画、カピバラが登場しているからである。オレのカピバラ好きは散々ブログで書いているので知っている方はうんざりするほど知っているだろうが、知らない方に一応説明すると、カピバラ好きのオレはカピバラ見たさに関東並びに関東近県の動物園のみならず、関西・四国のカピバラ在住の動物園まで出かけて見に行ったぐらいなのである。まあ実際は同じくカピバラ好きの相方さんに付き合う形で、と言ったほうが正確ではあるが。

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『ミラベルと魔法だらけの家』に登場したカピバラ(右下)

というわけで相方さんと二人、『ミラベル』を観てきたわけである。感想はというと、「カピバラが出ていました!」。……とまあそれだけでは身も蓋も無いのでので、感想めいたことをグヂャグヂャと書いてお目汚ししようかと思う(サディズム)。

【物語】コロンビアの奥地にたたずむ、魔法に包まれた不思議な家。そこに暮らすマドリガル家の子どもたちは、ひとりひとりが異なるユニークな「魔法の才能(ギフト)」を家から与えられていた。しかし、そのうちの1人、ミラベルにだけは、何の力も与えられていなかった。力を持たずとも家族の一員として幸せな生活を過ごしていたミラベル。ある時、彼らの住む魔法の家が危険にさらされていることを知った彼女は、家族を救うために立ち上がることを決意する。

ミラベルと魔法だらけの家 : 作品情報 - 映画.com

お話の構造は単純に言うなら「家族の中でただ一人毛色の違う自分がコンプレックスを乗り越え家族の中に自分の居場所を見つける/あるいは家族に自分の存在を認めさせる話」、である。まあ要するに世の中にゴマンとある「承認を巡る戦いとその成就」である。ポイントとなるのは「力が無い(とみなされていた)自分だからこそ出来た成功体験」であり、ある意味「落ちこぼれの私が東大合格」のような話だと思ってもらえばよろし。そういった部分で観る者にベタな共感を呼ぶことがこの物語の趣旨という事になるだろう。

とはいえこの物語においては「家族の危機を救えたのが魔法の力の無い自分だった」という点において、そもそもその「魔法の力の無い」存在であることが「あらかじめ用意されていた安全装置の特質」であったということも考えられるわけで、実はこの特質自体が主人公ミラベルの「そもそも備わっていた力」だったという事も言えるのではないかと思うのである。すなわちこの物語はミラベル個人の機転とか家族愛とか個人性の話なのではなく、既にしてそういった運命にあったという事なのではないか、とオレなどは勝手に勘ぐっているのである。

というのは、「魔力を持つ家族の血の濃さ」を描くこの物語で、ミラベルだけが魔力を持たないことの説明がなく、ただそれがたまたま運が悪くそうであったかのように描かれる部分がとても気になったからだ。この物語が観客に要求するのは「魔力」ではなく「家族愛の力」で家族の危機を回避させようとするミラベルの尽力の在り方への「感動」なのだろうが、そうは問屋が卸さないのである。「たまたま」やら「偶然の要素」が物語の根幹になるのは物語構造として弱すぎやしないか。

これが「落ちこぼれ」が「優秀な家族」を救う話だとしても、ではなぜ「落ちこぼれ」が「優秀な家族」を救えたのか。それは強い「家族愛」があったからです、というのは少々単純すぎやしないか。しかしこれを「一家の血の中にあらかじめ仕組まれた安全装置としての生を受けたミラベル」だとしたら説明がつくのだ。即ちこれは抗えない運命の物語であり、冷徹な血の機構の寓話なのである。まあ自分で書いてて考え過ぎだなと思うが、このぐらいひねくれてくれないと、ちょっとお話として納得できない部分があったということなのであった。

ところでちょっと思ったんだがコロンビアを舞台に閉鎖環境にあるコロニーの村と代々続く魔術的な家族って、これモロにガルシア=マルケスの『百年の孤独』じゃないのか?ペルーが舞台となるバルガス=リョサの『緑の家』もやはり閉空間の村における神話的な物語だったよな。この『ミラベルと魔法の家』はそういったラテンアメリカマジック・リアリズムの子供向けバージョンってことなのかな。