トムの、トムによる、トムサイコー映画『トップガン マーヴェリック』

トップガン マーヴェリック (監督:ジョセフ・コジンスキー 2022年アメリカ映画)

青春スター、トム・クルーズとしての1作目『トップガン

コロナ禍の影響で散々公開を伸ばされていたトム・クルーズ主演映画『トップガン マーヴェリック』が遂に公開される。大のトム・クルーズ好きのオレとしてはこれは観に行かねばならない。……とかなんとか思いつつ、1作目である1986年公開作『トップガン』を、実はオレは観ていないのである。「大のトム・クルーズ好き」などと言ってる癖にこれはなんという体たらくだ。

思えば、オレがトム・クルーズという俳優に一目置くようになったのは、1994年公開の『インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイア』からだった。これは凄い俳優がいるな、とそれからのトム主演作品は欠かさずとは言わぬまでも、かなりの数を観るようになった。逆に言うなら、それ以前の、『トップガン』を含めた彼の作品には、まるで興味が湧かなかったし、今に至るも殆ど観ていない。それは、初期の頃の「青春スター」然としたトムに全く興味が無かった、ということだった。そして『インタヴュー~』以降の彼は「青春」の冠の取れたエンターティンメント俳優として認知していたし、実際そのような活躍を見せていたと思う。

しかし『マーヴェリック』を観るにあたって1作目の予習は必須だろう、ということでサブスクで鑑賞してみた。感想としては「MTV時代のウェイウェイ青春予科練」といったものだった。恋、友情、試練といったストーリーのアウトライン自体は、それが戦闘機乗りの物語ではなく、スポーツ物語でも業界物語にでも幾らでも流用可能な、「青春」の名さえつけば成り立ってしまうありふれたものに感じた。しかし逆に、これが「戦闘機乗り+青春の物語」という特殊性があったからこそ、これほど注目を集め大ヒットしたのだろう。どちらにしろ、80年代的にキラキラした青春物語にはちょっと退屈してしまったことは告白しておこう。

マーヴェリックは帰ってくる

そんな1作目を『マーヴェリック』公開の前日に観終え、若干の不安を胸に劇場に足を運んだのだが、それはもう全くの杞憂だった。杞憂どころか、この続編はトム・クルーズのキャリアの節目とも成り得る素晴らしい作品だった。これまでアクション映画、SF映画でのトムばかり観ていたので、きちんと「人間ドラマ」に踏み込んだトムの姿は新鮮であり、しかしてきっちり派手なアクションも見せつけてくれた、と言った部分で、大いに満足できる作品であった。

【物語】アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校トップガンに、伝説のパイロット、マーヴェリックが教官として帰ってきた。空の厳しさと美しさを誰よりも知る彼は、守ることの難しさと戦うことの厳しさを教えるが、訓練生たちはそんな彼の型破りな指導に戸惑い反発する。その中には、かつてマーヴェリックとの訓練飛行中に命を落とした相棒グースの息子ルースターの姿もあった。ルースターはマーヴェリックを恨み、彼と対峙するが……。

トップガン マーヴェリック : 作品情報 - 映画.com

物語は「未だに無茶ばかり仕出かす伝説のエリートパイロット」である主人公マーヴェリックが、トップガンパイロット養成学校の教官として帰ってくる、という部分から始まる。彼は出世を拒否し、未だにテストパイロットとして生きていたのだ。そんな彼が教官として携わるのは、「ならず者国家」の核施設を急襲するという実行困難な特殊軍事作戦を担う若手パイロットたちの訓練だった。

世界的トップスター、トム・クルーズとしての続編『トップガン マーヴェリック』

ここで観られるのは、実戦パイロットとしての一線を既に退いたマーヴェリックの、自らのキャリアへの内省である。戦場にはもはや出ることのない「現在」があり、かつて訓練中に仲間を死なせたという「過去」への悔恨がある。その中で若手パイロットの訓練という「未来」への橋渡しをしなければならない。こうして現在と過去と未来のせめぎ合いの狭間にいる彼は、老練とはいえ既に十分に年を経てしまった男なのだ。これは、1作目『トップガン』の煌めく様な青春の中にいた男の、その後の老いの人生の物語なのだ。

続く物語展開については割愛しよう(ネタバレ回避)。ただ一つ言えるのは、「過去の栄光を持ちつつ教官として地味に生きる姿をしっとり描く作品」かと途中まで思わせながら、結局しっかりと「トム印の無茶極まる超絶アクション」を見せつけ、「ああ、やっぱりいつものトム映画じゃんかよ!」とニマニマしながら楽しめること請け合いである、という事だ。1作目ではなんだかんだいって3機ばかりの敵戦闘機とドッグファイトを見せただけなのを考えると、今作はきちんと、そしてド派手に「軍事アクション」しているのだ。その辺りでも前作を超える、十二分に楽しめるエンターティンメント作として完成していた。

トムの、トムによる、トムサイコー映画

しかし作品を観終わって感じたのは、この物語それ自体が世界的トップスターであるトム・クルーズの、その人生の縮図そのものではないかということだ。かつて「将来を嘱望された新人パイロット=将来を嘱望された新人スター」であった過去があり、「未だに無茶ばかり仕出かす伝説のエリートパイロット未だに無茶ばかり仕出かす世界的大スター」の現在がある。では未来は?この作品で見ることのできるトム・クルーズの姿には、流石に老いの影がある。これからも今までと同じように無茶ができるかどうかは分からない。だから教官として後続に道を預けてもいいのだが……、でも、無茶しようと思えば、今まで通りできちゃうんだからね!まだまだ若いもんには負けないんだからね!

というわけで映画『トップガン マーヴェリック』、つまりはトップスター・トム・クルーズが、「僕はいつだって現役だぜ!」ということを高らかに宣言した、「トム・クルーズマニフェスト」とでも呼べるような作品でもあったのだ。即ち、トムの、トムによる、トムサイコー映画、それが『トップガン マーヴェリック』だったのである。ってかトム君、サイコーなのは十分分かってるから、あんまり無茶しないでね!?