マドンナ、シングル『Sorry』、あるいはアルバム『Confessions on a dance floor』

実はオレ、マドンナが結構好きだったりする。


「マドンナ、4○歳にしてピンクのレオタードでディスコを歌う!」なんてマスコミで騒がれていたアルバムからのシングルカットです。なんつーかもう、今挙げた謳い文句がオレは本当に嫌いで、実際の所これ自体もマドンナの販売戦略なんでしょうが、このしたたかさにまんまと乗せられてそのまんま言葉を吐くって言うのがお馬鹿丸出しっていうかもう…。その理由を以下に。


ピンクのレオタード、ディスコ、アバの曲からのサンプリング。このあまりにもあからさまで判り易い販売戦略は、イラク戦争真っ只中に発表された前作『アメリカン・ライフ』が、その反戦的態度でマスコミから叩かれた、と言う失望感・敗北感から生み出されたもんじゃないか、とオレなんかは思ってます。現にこのアルバム『Confessions on a dance floor』では、あえて『なんの思想も無い』とまで公言しているぐらいだからです。その発売1週間の売り上げの数字はというと米調査会社ニールセン・サウンドスキャンの調査で、まず前々作のアルバム『MUSIC』が42万枚、『アメリカン・ライフ』が24万1000枚と大きく下回り、この『Confessions on a dance floor』で35万枚と持ち直したことから判ると思う。しかし売り上げの伸びなかった『アメリカン・ライフ』が駄作だったかというと決してそうではなかった。


『アメリカン・ライフ』。マドンナの女性であり母である、その私的な立場から作られた実に内省的なアルバムで、そのサウンド・プロデュースの先鋭さからもオレはマドンナの最高傑作だと思ってます。007映画の主題歌やタイトル曲以外はささくれたSEをかけられたギターのみをバックに歌うひりひりとした曲が多かった。これが実に胸に沁みた。しかしそれまで処女ぶりっ子だったりマテリアルガールであったり歌姫だったり先端ファッションだったりとペルソナを纏ってきたマドンナにしては地味、と取られたのかもしれない。けれど、その歌声が仮面を脱ぎ捨てたごく私的な部分から湧き上がってきたものだからこそ、『アメリカン・ライフ』は奇跡のように美しいアルバムだった。


しかし、『アメリカン・ライフ』は売れなかった。反戦メッセージの強すぎたPV『Die Another Day』の回収騒ぎがまずケチを付けたのだと思う。当時アメリカの世論はイラク戦争に肯定的で、その追い風に水を差すものだと受け取られたのだ。ひとりの母親として、そして最も影響力のあるポップスターの立場として、この事件は敗北以外何者でもなかったのだと思う。


と言うわけで生み出されたニューアルバムは、『アメリカン・ライフ』と真逆のコンセプトを取るアルバムであり、パッケージとしては王道の売れ筋ではあったが、アーチスト性も目新しさもない大味なアルバムになってしまったような気がする。そしてこの大味な音楽を、マドンナは「あんたたち、こういうのが好きなんでしょ?」と言っているよう思えてならなかった。ピンクのレオタードでディスコを踊る40女。マスコミは揶揄したがむしろこれはマドンナなりの音楽ジャーナリズムやミュージックリスナーへの挑発だったのではないのか。つまりは変化や斬新さよりもリスナーの求めるマドンナ像を演じたのだろう。そこがなにか歯痒い。


そしてこれがまたいつものように売れた。マドンナはアーティスティックなミュージック・メイカーである以前に、売れることが宿命付けられているようなポップ・アーチストだからだ。実際、英米音楽史上マドンナほど音楽チャートのトップに名を連ねたアーチストはあのエルビス・プレスリーだけなのだ。チャートインは50曲あまり、ビルボードチャートベスト10では『Confessions on a dance floor』からのシングル「Hang up」がベスト10に入った段階で通算36曲目、この記録はビートルズを抜きプレスリーとタイであり、そしてこれからもこの記録は伸びていくのであろう。まさにポップ・ミュージック界の女帝の名をほしいままにしているのだ。


さてこの新たにカットされたシングルはペット・ショップ・ボーイズ、ポール・オークンフィールドなどそうそうたる面子が参加している。「音楽的には退屈」とは書いたけれど、こうして新しいミックスの曲を聴いていると、やっぱり腐ってもマドンナだなあ、と思う。この程度の音はマドンナにはお茶の子さいさいなのだ。やっぱり、ガンガン売れるといい。そしてまた、次作には新たなスタイルのマドンナとして音楽を作り続ければいいんだと思う。

Sorry

Sorry

Confessions on a Dance Floor

Confessions on a Dance Floor

American Life

American Life