シャー・ルク・カーンがダサ男とイケメン二役を演じるラブ・コメディ〜映画『Rab Ne Bana Di Jodi』 【SRK特集その9】

■Rab Ne Bana Di Jodi (監督:アディティヤ・チョープラ 2008年インド映画)


親の遺言で憧れの女性と結婚できたのはいいけれど、ダサ男だったばっかりに「あなたのことは愛せない」と打ち明けられ、家庭内離婚状態だった主人公が、一念発起してイケメン(?)ダンサーに変装し、妻のハートをゲットしようと近づいちゃう!?というシャー・ルク・カーン主演のラブ・コメディです。監督は伝説の名作『Dilwale Dulhania Le Jayenge』のアディティヤ・チョープラ。タイトルは「夫婦は神によって創られる」といった意味だとか。

主人公の名はスーリー(シャー・ルク・カーン)。真面目だけが取り柄のとことん地味ィ〜なオッサンである彼は、恩師の娘ターニー(アヌーシュカ・シャルマ)に一目惚れ。「でも僕なんて相手にされないだろうなあ…」と思っていた矢先、恩師が「わしの娘を貰ってやってくれ……」と遺言を残し逝ってしまいます。そして目出度く結婚したのも束の間、ターニーに「私、良い妻になることは誓うけど、あなたを愛することはないわ……」と告げられ、家庭内離婚状態へ。落ち込むスーリーでしたが、ある日ターニーがダンス教室に通いたい、と言ってきたことからある計画を思いつきます。それは、ギンギンのイケメン男に変装し、ターニーのダンス・パートナーとなって、彼女のハートを射止めちゃおう!というものでした。

面白かったです。「親に決められた結婚なんかひっくり返して、大好きなあの人を奪っちゃおう!」というパターンのインド映画はよく見かけるんですが、この映画のように「親に決められた結婚で大好きなあの人と結ばれたのに、相手が自分を好きになってくれない!」というパターンのインド映画は初めてだったもんですから、「お、こりゃ新しいな」と思って観ることが出来ましたね。「略奪婚」は「こういうことができたらいいのに」という願望を描いたファンタジーなんでしょうが、この作品のようにせっかく結婚しても家庭内離婚状態であるというのは、「こんなんなっちゃったけどどうしたらいいんだろう……」という部分でもっと切実な問題なのかもしれません。

この作品でまず楽しめるのがSRK演じる「ダサダサ夫スーリー」と、そのスーリーが変装した「イケイケ男ラージ」のルックスでしょう。ペッタリ撫でつけられた七三の髪に黒縁メガネと口髭で、服装も白シャツ+スラックス+運動靴というひたすらおっさん臭い男をインドの国民的大スターSRKが演じる、というのも面白いんですが、その彼の変身した姿である「イケイケ男ラージ」がカッコいいかというと、これが実はそうでもない、というのがまた哀れを誘うんです。ルックスこそヘアサロンをやっている親友に指南され、ファッショナブルに生まれ変わっていることはいるんですが、中身がそもそもおっさんなので、言動や行動が浮付いていて、結局「田舎者の勘違い男」にしか見えないんです。

だからダンス・スクールの奥さんの元に颯爽と現れパートナーになる「イケイケ男ラージ」ですが、そのあまりの素っ頓狂ぶりに妻ターニーは「なんなのこの人……キモッ」という反応を示しちゃうんです。映画だからってカッコいい男に変身していきなり奥さんを魅了しちゃう、なんて都合よくいかないんですよ。しかしそんな中、ターニーがラージに惹かれる瞬間が訪れるんです。それは、「俺ってイケてるだろ?」と演技しまくるラージではなく、そんなラージが無意識に見せた、スーリーへの素の優しさの部分なんです。こうして二人は信頼関係となりますが、それは妻ターニーが、ラージの中にあるスーリーの心に触れたからこその信頼だったのですよ。もう、こういった部分が泣かせるじゃないですか。

そこまで信頼されたなら「実はこれ、僕だよ!」と正体を明かしてしまえばいいじゃないかと思うでしょう。でも、スーリーはそうしません。スーリーにとって、妻ターニーに信頼されているのはあくまでラージなんです。ラージでいる時だけが自分は妻に信頼されている、と思い込んでいるんです。それはスーリーが、妻に拒絶されたことに、実は深く深く傷ついていたことの表れだと思うんです。そしてその傷は、ラージが信頼されたからといってもやっぱり治らないものだったんです。

それともうひとつ、ラージが最も望むこと、それはスーリーに常に幸福でいてもらいたい、ということなんです。スーリーは自分といる時は幸福ではない。でも、ラージといる時になら幸福だ。だったら、自分がしゃしゃり出たりしないで、スーリーはラージといればいいんだ…こう考えたスーリー/ラージはある行動に出てしまいます。決して許されることではないにせよ、それが、ラージにとっての幸福だと思って。例え自分は愛されなくとも、ラージには幸福になって欲しい。なぜならラージは、どんなに傷つけられていようとも、心の底から、ラージを愛しきっていたからなんです。

http://www.youtube.com/watch?v=QB2fZsBZGYs:movie:W620