踊る大泥棒!?全篇フェステボー&カーニボーなお祭り映画『Happy New Year』

■Happy New Year (監督:ファラー・カーン 2014年インド映画)

■ハッピー・ニュー・イヤー!

みなさんあけましておめでとう!…という時期はとっくに過ぎておりますが、インド映画『Happy New Year』でございます。主演にシャー・ルク・カーンとディーピカ・パドゥコーンという、名作『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』や大ヒット作『チェンナイ・エクスプレス 愛と勇気のヒーロー参上』で共演したインドの2大スターがみたび共演しているのがまず話題なんですね。

さらに『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』のファラー・カーンが監督ということで、期待度MAXの作品として製作され2014年10月に公開されました。公開後はあれよあれよという間に売り上げを伸ばし、最終的に2014年インド映画興行収益でアーミル・カーン主演作品『PK』に次いで第2位、歴代興行収益でも第4位を記録したという人気作なんですね。お話はダイヤ強奪計画を描くものなんですが、なぜかそこにダンスが関わってくる?というのがとにかく見所なんです!

■ダイヤ強奪計画+ダンス大会?

主演であるシャールクの役どころは時価5000万ドルにのぼるというダイヤ強奪を狙う男チャーリー。しかしチャーリーは決して私利私欲のためにダイヤを奪おうとしていたのではありません。ダイヤの入れられた難攻不落の大金庫を管理する男チャランは、かつてチャーリーの父を陥れ無実の罪で刑務所送りにした男であり、チャーリーはその復讐を果たそうとしていたのです。ダイヤ強奪計画のメンバーが次々とチャーリーの元に集まります。爆薬の専門家ジャグ(ソーヌー・スード)、金庫破りのタミー(ボーマン・イラーニー)、ハッカーのローハン(ヴィヴァーン・シャー)、計画の鍵を握る男ナンドゥ(アビシェーク・バッチャン)。

しかし、計画は完璧でしたが、重大な問題がありました。大金庫を地下に有するドバイのホテルでは世界ダンス選手権が開催されることになっており、これに出場を果たさなければ大金庫に近づくことが出来ないのです。けれども強奪メンバーの男たちはダンスのダの字も知らないドンクサい連中ばかり…。そこで白羽の矢が立てられたのがダンサーのモーヒニー(ディーピカー・パードゥコーン)!彼女にダンスを教わりダンス大会に出場しようと目論む男たちでしたが果たしてその結果は…ッ!?

■イケテない強盗団登場

いやーとことん楽しさの詰まった大娯楽作でありました。鉄壁の大金庫を狙うダイヤ強盗団!というとシリアスなクライム・ストーリーを思わせますが、実際はトホホな部分で一癖も二癖もありまくる連中が、右や左へドタバタジタバタしながら大騒動を繰り広げちゃう、というコメディ仕立てになった物語なんです。特に母親を侮辱されると怪獣の如く暴れまわるジャグ、なにかというと癲癇を起こすタミー、呑兵衛でしょっちゅうゲロ吐きまくっているナンドゥなど、問題あり過ぎてこいつらホントに大丈夫なのか…強盗向いてないんじゃないのか…と観ていて頭がクラクラしてきます。

一方シャールク扮するチャーリーとディーピカ扮するモーヒニーの関係もラブラブだったりギクシャクしたりと忙しい。モーヒニーのラブラブ光線が辺りをいちいち火の海にするというくだりはマンガチックすぎて爆笑必死、そんなモーヒニーにいつも心無い対応をしてしまいモーヒニーを泣かせるチャーリーの木偶の坊ぶりも徹底的なお約束展開。こんな連中がダンス大会へとチャレンジするんですが、なにしろひたすらヘボい連中なんでまともな踊りをすることすらできず、呆れるようなズルをして毎回なんとか乗り切る始末。イカシた踊りで魅せるインド映画は多々ありますが、どうにもイケテないダサダサなダンスで開き直ったかのごとく徹底的に攻めるインド映画はこの『HNY』だけかも!?この辺、一流のコレオグラファーでもあるファラー・カーン監督がわざとダサダサのダンス・シーンを演出する、という可笑しさもあるんですね。

■圧倒的な祝祭空間

しかし、今作で何よりも目を奪うのはオープニングとクライマックスに用意されたゴージャス極まりない映像です。メインの舞台となるアラブ首長国連邦ドバイ、贅を尽くした未来的な建造物が立ち並ぶその街のホテルが世界ダンス大会の会場となりますが、そのドバイの都市全てが巨大な祝祭空間と化しているのです。天を貫く幾百のサーチライト、打ち上げられる幾千の花火、目まぐるしく明滅する幾万の電飾、ありとあらゆる色彩が踊り光が瞬き、ダンスミュージックが轟音を響かせながらリズムを刻み、会場をみっしりと埋め尽くす観客たちは熱狂の中で歓声を振り絞り踊り狂うのです。

そしてその歓声の向こうに立つ姿は、シャールクでありディーピカーであり彼らの仲間たちです。彼らのまとう圧倒的なオーラは神々しさを通り越し既に神の姿そのものであり、そして観客たちはその宗教的な法悦の中で我を忘れ歓喜するのです。インド映画の醍醐味はその多幸感にあるといわれますが、この『HNY』はまさに溢れんばかりの多幸感にどこまでも特化した作品だということが出来るのです。

実の所この作品は物語的な整合感を求めると沢山の瑕疵があります。設定も粗雑だし、ダイヤ強奪計画もよく言えばコミック的、悪く言うなら子供騙しの範疇です。そもそも物語それ自体はスティーブン・ソダーバーグ監督の現金強奪映画『オーシャンズ11』にインド監督レモ・デスーザのダンス大会映画『ABCD』を掛け合わせ、コメディ風味を振り掛けたような内容で、決してオリジナリティのあるものではありません。しかしそういった欠点も、次から次へと描かれてゆくアクションや笑いによりとてもいい具合に帳消しにされているんですね。むしろ物語というものの持つ逐次的な説明の煩わしさをあえて切り捨て、刹那の楽しさと歓喜をどこまでも追及したのがこの作品ではないかと思うのです。あたかも極上の多幸感を生み出すために作り出された快楽装置の如き作品、天上の凱歌と神々の祝福を観る者に体験させてしまう作品、それが映画『Happy New Year』なのです。

なおDVDはあんまり画質がよくないので観るときは絶対Blu-rayを購入することをお薦めします。ってか劇場で観たいからさっさと日本公開しなよ!


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