先日はモツ焼き屋に行って一杯やっていた。初めて入ったその店は、居酒屋風の店構えをした大衆的な雰囲気の店で、料金もそこそこに安かった。しかしなんと注文は食券制。駅の立ち食い蕎麦屋みたいにいちいち食券を買って店員に渡すのだ。経費削減とか何とかなんだろう。そしてあれやこれやの焼肉を注文したのだが、問題はセンマイ刺しだった。
食券を買ってセンマイ刺しを注文したところ、どことなく悪意を秘めているかのような怪しい色した不気味な生肉が皿に盛られて出てきたのだ。「センマイ刺しってこんなだっけ?」と怪訝に思いつつ酢味噌に付けて口に運んだが、ヒジョーにビミョーな味がする。なんとなく雑巾臭い味がするのだ。いや、いくら貧乏をこじらせているオレだとはいえ、雑巾を食ったことは無いのだが、肉を口に含んで鼻に抜ける味わいが、なんだか雑巾っぽいのである。こうなってくると食感まで雑巾みたいに思えてきて、噛んでいて気色が悪い。味もなんともいえない雑味がする。
「なんだこりゃ?」と思ったオレだが、いや、品物が悪いのではなく、そもそもこういう味付けなのかもしれない、オレの知らないある種特別なこの店秘伝の味なのかもしれない、この味を不味いと思ったオレが負けなのかもしれない、と、もう一度気を取り直してチャレンジすることにしたのだ。ひょっとしてオレの見落としていたこのセンマイ刺しならではのいい所があるかもしれない、と思って。
しかし、2回3回と口に含んでみても、雑巾臭いという最初の印象を払拭する逆転ポイントなんぞ見つからず、むしろセンマイ以外の何か、映画「エイリアン」に出てくるチェスト・バスターの抜け殻を灰汁で煮込んで塩で揉んだ様な、火星怪獣ナメゴンの臓物を細切りにしてケムール人の体液で和えた様な、現実からかけ離れた異次元の食い物を食わされているのではないか、という気さえし始めたのである。
ひょっとしてこの店の店主は地球侵略のためにやってきた異星人で、焼肉と偽って地球人たちに密かに異星の生物の臓物や肉を出しているのではないか。オレは今次元の狭間のトワイライト・ゾーン、アウター・リミッツの世界に陥り、オレが謎のセンマイ刺しモドキを食っている映像に、石坂浩二の「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れ、この不思議な時間の中に入って行くのです」というナレーションが被さっているんではないか、と思えてきたのである。♪ジャジャジャジャジャジャジャ・ジャジャ〜ン・ジャジャ〜ン(ウルトラQのテーマで)。
このままこのセンマイ刺しを食っていたら肉体を異星人に乗っ取られてしまうかもしれない。その証拠に、既に腹の辺りがなんだかでんぐり返っているではないか。…いや、単に胃の調子がおかしくなってきただけだったが。そうしてコリャヤヴァイ、と思ったオレはその日そのセンマイ刺しを殆ど残して店を出てきたのである。こうして日記に書いているこの今でもなんだか胃の調子が悪い。それにしても、あのセンマイ刺しはなんだったのであろう。
余談だが、今日の朝会社で受け取ったFAXを見たら差出人が「モツ」と書いてあり、いったいどういう名前なんだとよくよく目を凝らしてみたら、「モツ」ではなく汚い字で「吉川」と書かれていたことが判明した。ひょっとしたらオレは、既に異星人に体を乗っ取られているのかもしれない。全てのものが異星人の目で見えているのかもしれない。そう思うと、恐怖に身がすくみいてもたってもいられない気分のこのオレであった。