今度のサンドラー映画はイスラエルとパレスチナの和平を願うバカ映画だった!?

■エージェント・ゾーハン (監督:デニス・デューガン 2008年アメリカ映画)


イスラエル軍の特殊工作部隊エリート、ゾーハン(アダム・サンドラー)にはひとつの夢があった。それは渡米してヘアスタイリストになる事。度重なる戦闘に疲れ果てた彼はある日、宿命のライバルであるパレスチナ兵士ファントムとの戦いで死亡したように見せかけて隠密裡にニューヨークへ渡り、有名ヘアサロンへと飛び込む。しかしゾーハンのセンスはすっかり時代遅れ、門前払いされた彼はエスニック・タウンの外れにある小さな美容院へと弟子入りした。美人の店長に心奪われるゾーハンだったが、彼女はパレスチナ人だった・・・。

気のいいアンちゃんことアダム・サンドラーの新作は、相変わらずシモネタ連発のコメディ映画であるが、こうして粗筋だけ書くとなんだか社会派ドラマのように思えてくる。昨年末からイスラエルによるガザ地区への攻撃が激化し、多数の死傷者が出ていることはニュースでも報道されているが、ユダヤ人であるアダム・サンドラーイスラエル特殊工作員に扮し、戦争稼業に嫌気が差して向かったニューヨークでパレスチナ人たちと手を取り合うというこの物語、アメリカでは6月公開だったけど、時期的に鑑みると凄く平和メッセージのこもった映画として観れるではないか。しかし何度も言うがシモネタ連発だけどな!

サンドラーは彼のTV時代の出世番組であるサタデー・ナイト・ライブの頃から自らの出自であるユダヤ人ネタを多くやってきたし、脚本も担当した今作でも「難しいこともあると思うけど、みんな平和でハッピーになろうよ」といった楽観主義的な映画を作りたかっただけなんだろう。前作『チャックとラリー おかしな偽装結婚!?』でもゲイ問題を扱いながらも結末はやはり脳天気なくらい楽観的だったし。それは社会問題を単なるネタ扱いにしているのではく、そういったものを踏まえながらも腹を抱えて笑えるコメディ映画をまず作りたい、というシンプルな欲求があっただけなんだろうな。

映画では主人公ゾーハンのバック・トゥ・90´sなちょっとダサダサなセンスが前面に散りばめられ、この辺で固めたファッションや音楽が笑いを醸し出している。なんといってもマライア・キャリー本人がディーバとして出演、今時マライア?と思っていたらこれが結構好感度が高くて観ていた自分もビックリ。イスラエル人独特の風俗・嗜好を笑いのターゲットにしている部分も、馴染みが無いながらなんだか可笑しい。パレスチナ人もギャグの対象から逃れられない。「テロリスト・インフォメーション・センター」に相談するシーンとか、よく考えるとアブナイけれどさらっと笑いに持っていっている部分がいい。

あとやはり、これはアメリカだから可能な物語なのだなと思う。中東問題は、一朝一夕で解決できるものではなく、そもそも解決など有り得るのだろうかとさえ思えてくる。しかしニューヨークのエスニック・タウンで、イスラエル人とパレスチナ人が手に手をとり、ここにいる俺たちだけでも平和を目指そうや、というのは決して不可能なことではない筈だ。種々雑多な民族の入り混じるアメリカならそれは有り得ることだろう。そういった、夢ではない夢を実現させたこの映画は、バカとシモネタで溢れていても、やはり夢と希望について描かれた映画なんだろうと思う。

■You Don't Mess With the Zohan Trailer

http://www.youtube.com/watch?v=jmMXk0bA8gk:MOVIE