”雪は踊っている” MUMとその音楽

Summer Make Good

Summer Make Good

ムームの音楽的ジャンルはエレクトロニカとかフォークトロニカとかいう範疇になるのだろうか。電子楽器が基本ではあるが、メロディカアコーディオン等の生楽器、さらに現実音のサンプリングを効果的に使い、その音の感触は柔らかく牧歌的で、どこか童謡を思わせる素朴さと稚気に富んだ遊び心を感じさせる音を奏でている。
ムームは、アイスランドレイキャビク出身。ビュークとも交流があると言う。アイスランド大自然と大地が育んだかのような叙情的で大らかなメロディ。そして寒冷な土地に生まれた人々の心象を感じさせる独特の哀感と、暖炉の前で御伽噺をしているかのような包み込むような暖かさ。しかしその音は複雑で、現われては消える雨音のように響き合う音色は、想像力に富み、聴く者に様々な色彩や映像を連想させることだろう。そして寒さ、暖かさといった温度や湿度まで感じさせる。夜の森の中、はたまた薄明に歩く海岸に吹きすさぶ風と波の音、しんしんと降る雪の中の静けさ。ムームの音はアイスランドの自然の中に放り込まれたかような錯覚さえ抱かせる。
オレの生まれた所は雪の多い土地で、冬には地面は一面の雪の白。晴れる事の少ない空はいつもどんよりとした鉛色に輝いていた。葉を落とした木も家家もどれも黒っぽく沈んだ色で、白と黒とグレイ、モノトーンだけの世界があたりに広がっていた。海は近かったが、北の海は藍色というよりは寒々しい群青色、風の強い時化(しけ)の日には激しい波に海は灰色に泡立っていた。
冬の寒い日に表に出ると、全身の毛穴が一瞬にして閉じ、自然と筋肉は緊張して皮膚の表面が硬くなるのが分かった。寒さは体の温暖の感覚よりも痛覚を刺激していた。そして雪が降ると空気の中一面に咲いた雪の結晶が回りの全ての音を吸い取り、深い深い沈黙が街中を覆った。
そんな音も無く光も無く色彩も無い世界で、ただ感覚だけがひりひりと醒めたまま一年の半分を過ごしていると、自然と人は幻想や妄想に浸ってしまうものだ。少なくともオレの空想癖はこの冬の情景と切っても切れないものだったのではないかと思う。あの頃、音楽を外で聴けるポータブルプレイヤーなんて無かったから、オレは頭の中でいつも捉え所の無い奇妙な音楽を鳴らしていたり、取りとめの無い物語を夢想していたりした。
そしてこのムームの音楽にも、同じ様な妄想と夢想を感じる。モノトーンの雪景色の荒野を歩きながら、湧き上がって来る幻想を。音や、色彩や、光りを。
MUM WEB : http://mumweb.net/
ここでMUMBBCラジオでのライブ音源が聴けます。
 http://olivier.gauwin.free.fr/Mum-OneWorld.mp3