スパイダーマン2

各所で絶賛の嵐であるこの映画であるが、観て驚いた。本当に物凄く面白い映画である。
実のところ、「1」のほうは、嫌いじゃないが、今ひとつ乗れない、というか、「好きになってあげないもん」といった映画であった。面白いことは面白いんだけど、青春のうんたらかんたらをマッタリやり過ぎてるんだよなあ。
それと、主人公のトビー・マグワイアの顔がオレの会社の後輩にそっくりで、しかもこいつは悪い男じゃないんだが、どこか暖簾に腕押し柳に風のへにょへにょしたヘタレ男で、「こいつに世界を救えるわけ無いじゃんかよ!」と、そいつが出演してるわけじゃないのに映画の上映中ずっと憤慨していたのである。いや、この後輩自体はオレは大好きなんだけどさ。でも「お前はスパイダーマンって顔じゃないよな!どうにかしろ!」と「1」を見た後にこの後輩をしばらくいびってあげていた。全く、後輩もいい迷惑である。
後、みんな思っているけど誰も口に出して言わない、王様の耳状態のキルスティン・ダンストの器量無しのルックス。キルスティンさんには恨みはないが、悪いけど、キルスティンさんの為に世界を救おうと思う奴はオレの周りには誰一人いなかった。ここでまた後輩をいびった。「おいM!お前女の趣味悪いぞ!」「…だからボクあの映画に出てないですぅぅ〜…(泣き顔)」。
それにしても2でも思ったが、ライミって捉え所のない顔した俳優が好きだなあ、と思った。主人公以下、取り立てていい男でもなければ個性的な顔をしているわけでもない。先のキルスティンさんも言ってみればこの捉え所のない顔の女優、ということになるんだろう。今回の悪役であるアルフレッド・モリーナも、悪役の顔でもなんでもない。何しろ画面に出てきた時、「え、この人が今回の敵役なの?」とその優しく穏やかな顔に困惑したもんである。思うに、監督のサム・ライミはあえて、顔つきだけでキャラクターを想像できないような配役をしたのではないだろうか。それは、このスパイダーマンという映画のテーマのひとつである人間の持つアンビバレンツさを表現する為だったのではないかと思う。
この映画でよく言われるのは青春映画としての側面だろう。スパイダーマンの中の人であるピーターは普段は何をやらせてもピリッとしないイマイチな奴である。これはスーパーマンが世を忍ぶ仮の姿として平凡な男クラーク・ケントを演じているのとはちょっと違う。いや、しかし、同じヒーローなのに何故違うんだろう?スーパーマンは完全な肉体と精神と行動力を持つ成人した男のメタファーなのである。少なくとも、男とはこうであるべき理想としてのマッチョなヒーローなのだ。バットマンはどうか?バットマンはダークだが、スーパーマンをリアルにするとバットマンになるのである。しかし、成人した男であることに変わりはない。スーパーマンとの違いは、バットマンは風俗ぐらいなら行くし、裏ビデオの2,3本は所持してるのである。
さて、この映画のスパイダーマンはなんなのだろう。この映画でのピーターは、駄目っぽい男ではあるが、決して怠け者ではない。彼は彼なりに努力をしているのだ、学業のため。生活のため。ガールフレンドのため。将来のため。でも彼は空回りする、こんなに努力しているのに。でも、青春期って、本当はこんなんじゃないのか。この年代って、そもそも惨めなもんじゃないのか。みんなそんなに、TVドラマや映画みたいに愉快に楽しくやってたかよ?学生の頃とか、社会人になりたての頃って、皆自分の無力さ、物の知らなさを感じなかったかよ?オレはこの時期の暗さを否定しちゃいけないと思うよ。
この映画の、駄目青年ピーターにとってのスパイダーマンとは、青年期の人生に対する理想の具現化なんじゃないかと思う。スパイダーマンというスーパーヒーローになりたい、とか、スパイダーマンになって正義を貫きたいということではない。自分の叶えたい夢、叶えたい事、それらの抽象的な理想の結実を、あえてスパイダーマンという肉体で表現しているのではないか。摩天楼の中を飛び回るスパイダーマンという存在の全能感=理想を手にした自分。そしてそれとは裏腹な現実の自分。だからこそ彼は悩む。大きな夢や理想を叶える術を持たず、そのもどかしさに彼は悩む。でも、いいじゃないか。少なくとも、理想や夢を持って生きていけるんだから。そして理想や夢は、そう簡単に叶わないから、理想や夢なんだから。
映画スパイダーマンは、「理想を持って生きることの困難さと崇高さ」についての映画だったんである。でも、だから、みんな、後は、地道に努力していくしかないんだと思いますよ。特に才能があったり、親が金持ってるわけじゃない、こんなに平凡な自分だと思い知った後では、もう、あと、努力していくしか、ないじゃないかよ、と、オレは思いましたよ。あきらめちゃだめなんだよ。がんばれば、この映画のラストのキルスティンまでが、長年連れ添ったオンナみたいにイイ女に見えましたよ。(そんな女はいないんだが)