悪魔の沼 (監督:トビー・フーパー 1976年 アメリカ映画)

悪魔の沼 デラックス・エディション [DVD]

悪魔の沼 デラックス・エディション [DVD]

■感動の動物映画大作!(嘘)
処女作『悪魔のいけにえ』で全世界を恐怖のズンドコに陥れたトビー・フーパーたんがホラーマニアの期待を一身に受けて製作された第2作、これが『悪魔の沼』だ!今回リニューアルされてDVD発売したので、脳に膿の溜まったホラーマニアの一人としては買わねばなるまい!という訳で早速ゲト&鑑賞!う〜ん、やっぱりイカレタ変態の作る映画はイカレタ変態映画だね!トビー・フーパーたんに興味の無い人にはちょっとツライ内容かもしれないが、オレは結構楽しんだぜ!

内容はというと、アメリカのとあるド田舎でモーテルを構えるおっさんが、泊まりに来ているいけすかない客を次々お腹を減らした可哀想なワニ君の餌にしちゃう、という「ベンジー」や「ベイブ」も真っ青の感動のファミリー・アニマル・ムービーだよ!動物愛護協会PETAのご推薦が欲しい所だね!セイブ・アニマル、キル・ヒューマン!しかしお話だけ書くと獰猛な巨大ワニがあたかもジョーズのように人間達に齧り付く恐怖のシチュエーションが演出されているように思えちゃうんだけど、実際このワニの造りがセコイ!単なるワニの置物!ワニの浮き輪かと思っちゃったじゃないか!マブチモーターで泳いでんのかお前!予算が相当無かったらしいんだが、これにはおじさん絶望した!

■そしてみんな変態だった
なにしろ本当にローバジェットで作ったみたいで、そのせこさが逆にシュールなんだよね。ロケーション的にはモーテル、売春宿、飲み屋、警察オフィス、という、数えるほどの場所しか使っていなくて、しかもオールセット、殆ど室内だけが撮影されていて、映画全体が密室のようで息苦しいんだよ。まずこれが異様なんだよね。それと光線、これが夕暮れってことなのか、ただただ真っ赤なライトが照らされているだけで、物語前半は何もかも真っ赤っ赤、もうこの映画は永遠に夕暮れなの?と思ったぐらいだ。そして次の日になっても昼間だというのに霧がかかり、あたりは薄暗いまま。時間感覚が全くストップしてしまってるんだね。これがまた異様。

そしてなにより強烈なのは主人公のいかれたモーテル店主を演じるネヴィル・ブランドさんだ!もう顔が既にヤヴァイ!すっかりナイスなガイキチ顔だ!根本敬言う所の”アシッド系”の顔だな!この顔は外に出しちゃまずいだろ!?
《ナイスなガイキチ顔のネヴィル・ブランドさん》

で、このネヴィル・ブランドさん、じゃなくてモーテル店主、いかれてるといえばそれまでなんだが、常に理由不明で挙動不審な行動と言動が観ていて脳が溶けそうになる。尖がった狂気というんじゃなくてとろけてグズグズになった狂気。ばらばらに解体した自意識が人間の皮という袋の中に入ってなんとか一個の物のように見せかけているというかね。しかし観ているほうとしては「ぎゃはは!アホだこいつ!」と笑うしかない!という訳でこのおっさんがまたまた異様!

映画のシチュエーションも狂ってていいぞ!特に訳が判らなかったのはモーテルの一シーンなんだが、まず上階の部屋では拉致監禁され猿ぐつわ噛まされてベッドに縛られてる若奥様が、ベッドギシギシいわせながら「うぐう!うぐう!」と喚いている!その下の部屋では若いカップルがエッチしながら「むふう!むふう!」と悶えている!そしてその部屋のドアの向こうで、喘ぎ声を盗み聞きしているモーテル店主が「うがあ!うがあ!」と呻いている!さらに軒下では、店主に殺されそうになってここに逃げ込んだ女の子が「うぎゃあ!うぎゃあ!」と泣き叫んでいる!これらのシーンがかわるがわる何度も繰り返される!もうなんだか意味が判らなくてとっても異様!という、異様だらけの映画『悪魔の沼』なのだ!

■監督のトビー・フーパーたん
こんな風にこの映画って構造それ自体がかなりイビツなんだね。というか、ハリウッド的な映画の文法をまるで無視した、もはや「オレ映画」としか言いようの無いフリーキーさとアナーキーさは少なくともある。これ以降のトビー・フーパーの作品を観れば一目瞭然だが、やっぱりフーパーはお世辞にも”巧い”監督ではないし、ひょっとして”才能のある”監督ですらなかったのかもしれないんだよね。ただこの”異様さ”の一点突破で映画業界で生き残っちゃった人なのかもしれない。そしてその異様さというのは、計算など一切無しでプリミティブな衝動をダイレクトに映像に焼き付けてしまえる、実はかなり稀有な”異能”振りが可能にした物だったんじゃないだろうか。だからこそ世界中の有名映画監督が手放しで『悪魔のいけにえ』を褒め称える。映画造りのプロ中のプロですら容易に到達できないその”プリミティブさ”が、彼を他に類を見ない監督とさせたんだろう。実はこの『悪魔の沼』でも、あのデビッド・リンチを髣髴させるシーンが幾つもあり、逆に言えばトビー・フーパーとは早すぎたデビッド・リンチだったんじゃないか、リンチがセンスの代わりに電ノコを手にしちゃったらトビー・フーパーになっちゃったんじゃないかとさえ思った。…なんて言ったら褒め過ぎだけどな!
ちなみに配役には『ファントム・オブ・パラダイス』のウィリアム・フィンレイが神経症じみたオヤジを、『エルム街の悪夢』のロバート・イングランドがケチなチンピラの役で出演している。あと娼家の婆さんが「こいつ特殊メイクでもしてんのか?」と思わせる不気味な容貌で、ある意味ネヴィル・ブランドと双璧を成すヤヴァさを醸し出していた。あと撮影のロバート・カラミコは究極のバカホラー「死霊の盆踊り」を撮影した人だ!