神道の世界からやってきたヒーローが活躍する異様極まりないコミック『古代戦士ハニワット』

古代戦士ハニワット(1)~(8)/武富健治

古代戦士ハニワット : 1 (アクションコミックス)

長野県長野善光寺市に、なんの前触れもなく突如現れた巨大土偶。街を破壊し、阻もうとする人間を排除しながら漸進する土偶を阻止できるのは、そうハニワットしかいない!『鈴木先生』の武富健治が渾身の筆致で描き出す、超古代伝奇ヒーロー譚!!

このコミックの存在を知ったのはTwitterのこのツイートからだったんですけどね。

古代戦士ハニワット、友人から「諸星大二郎エヴァンゲリオン」と熱烈レコメンドされ、一巻無料だったので試しに読んでみたんだけど、本当に諸星大二郎エヴァンゲリオンだった。面白かった…
古代戦士ハニワット : 1 (アクションコミックス) https://t.co/l01PrG8Vc2

— 南無三 (@namuamidub2) May 15, 2022

「うーん諸星でエヴァって、そりゃちょっと盛り過ぎじゃないの?」と思いつつ、1~3巻がKindle Unlimitedで無料公開されていたので興味本位で読んでみたら、間違いなく諸星でエヴァでした。それだけではなく近来稀に見るほどに飛びぬけた発想と構成を持つ驚くべき作品でした。ツイート主さんを疑ったことをここで激しくお詫びします……。その『古代戦士ハニワット』、何が凄かったかって、まず世界観が神道の世界なんですよ。

突如日本に発生した「土偶の形をした荒ぶる神」を鎮めるために「埴輪をモチーフとしたヒーロー」ハニワットが出動する、というお話なんですが、最初は「よくあるヒーローモノの亜流か」程度に思ってたんですがね。でもハニワット登場シーンでまず度肝を抜かされるんですよ。まず大勢の巫女さんが登場しシャアアンシャアアンシャアアンと鈴を鳴らし踊り始める!そして神職の出で立ちをした弓隊がビョイインビョイインビョイインと弦を弾き鳴らす!シャアアンシャアアンシャアアン!ビョイインビョイインビョイイン!もうこのシーンだけで「オレたちはいったい何を見せられているんだ!?」と呆然とさせられるんです!要するに「神下ろし」ということなんでしょうが、それでもこの異様さだけで全部持っていかれるんです。

そこからの「荒ぶる神」とハニワットの対峙も、「戦い」ではないんですね。「神をもてなしてお引き取り願う」ことなのだという。「神」だから退治ではないんです。さらにそのハニワットも、最初の1体があっけなく敗退するもんだから「???!」と唖然とさせられる。どうやらハニワット、何体も存在していて、それぞれに「操縦者」がいるんですが、この「操縦者」たちもどれもワケアリだったりして一筋縄に行かない。さらに背後に存在する神社庁も一枚岩では無く、謎も多い。この辺りがエヴァなんでしょうね。そして『日本書紀』から始まる設定の深淵さ、複雑さは当然諸星です。

さらにグラフィックが激情のほとばしる実に熱いもので、描線の微妙な揺れ方には『進撃の巨人』あたりに通じるドロドロとしたパッションが渦巻いていて、これがまた逆に新鮮なんです。決して下手なのではなくむしろベテランの筆であることは分かるんですが、泥臭く、洗練とはまた違う絵なんですよ。作者である武富健治氏の作品は今まで読んだことがなかったんですが、調べたら『鈴木先生』の作者で、これはオレでもタイトルは知っていた大ヒット作じゃないですか。その武富氏が少年時代から温めていた構想というのがこの『ハニワット』で、まさしく満を持したリリースだったのでしょう。一時は中断も危ぶまれたらしいのですが、こうして書き続けられているのは僥倖としか言いようがありません。今後の展開が楽しみでしょうがない作品がまた一つ増えてしまいました。