『バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト』は痺れるほどにカッコいいバットマン・コミックだった!

バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト / ショーン・マーフィー (著、イラスト)、クラウス・ジャンソン (イラスト)、秋友克也 (翻訳) 

バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト (DC BLACK LABEL)

自らの善の人格であるジャック・ネイピアを意識の奥底に追いやったジョーカーは、 ウェイン一族への復讐を誓うアズラエルを使い、ゴッサムを混乱に陥れようとする。 新たなダークナイトとしてゴッサムに君臨せんとするアズラエル。 その刃の前に一人また一人と倒され、 彼はゴッサムを自らの理想郷に作り替えるべく邁進する。 そしてウェイン一族の秘密の歴史が暴かれた時、 ブルース・ウェインが長きにわたって築き上げてきた信頼は粉々に打ち砕かれる事になる…

バットマン絶対の危機!

「狂気から醒めたジョーカーがバットマンを糾弾し遂に投獄にまで追い詰める」。DCコミック『バットマンホワイトナイト』はそんなショッキングな展開を見せる物語だった。それは多義的になり過ぎた価値観が”正義”の意味すらも曖昧にする現代を戯画化したかのような作品だった。その続編となるのがこの『バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト』だ。この作品においてジョーカーは再び狂気に目覚め、最凶のスーパー・クリミナル、アズラエルを召喚する。アズラエルは2代目バットマンを名乗り、初代バットマン掃討作戦を展開する。失墜したバットマンは自分にとって正義とは何だったのかを自問し、一人孤独な戦いを開始する。

ハーレークインは正気のジョーカー/ジャック・ネイピアとの愛を再び取り戻すために苦悶し、ゴードンとナイトウィング(一般にはロビンで知られるキャラクター)、バットガールは混沌と騒乱の只中にあるゴッサムの治安を取り戻すため奔走する。そんな中、ウェイン家とゴッサムにまつわる、数百年前の呪われた事実が明らかになってゆく。そしてそれはあまりに衝撃的な事実だったのだ。

バットマンホワイトナイト』はその大胆かつ斬新な展開により、バットマン・ストーリーを一つの高みまで持ち上げ、これ以上ないと言っていいほどの鮮やかな終局へと導いていた。だがこの続編ではそのさらに先にあるものを見せようとする。それはゴッサムという都市の始原にあった血塗られた謎である。アズラエルはその謎にかかわるパズルの1ピースであり、ウェイン家/バットマンと暗く深い因縁でもって結びつき合っていたのだ。

そしてこのアズラエルが、究極の敵としてバットマンの前に立ちはだかる。その無慈悲な性格と強力無比なパワーは、これまでバットマン・ストーリーに登場したあらゆるスーパー・クリミナルを遥かに凌駕し、バットマンと死闘を繰り広げてゆく。このアズラエルの暗黒の力、そして炎と闇をそれぞれにまとったコスチュームは、悪党ながら見惚れるほどにクールなのだ(正直、フィギュア買おうかどうか悩んでいるぐらいだ)。

痺れるほどにカッコイイ名作!

いやしかしここまで徹底的にバットマンが追い詰められるとは。物語はとことんシリアスであり、呆然とさせられるエピソードが持ち込まれ、重厚で重層的な構成はグラフィック・ノベルの醍醐味をとことん味わわせてくれる。全てを失い、絶対の危機に直面したバットマンが、なけなしの正義を胸に、ほとんど捨て身で最期の戦いへと足を踏み入れてゆく展開は、痺れるほどにカッコイイ!!前作も相当な完成度だったが、今作はそのさらに上を行く素晴らしい出来栄えの作品だ。

これらを可能にしているのはストーリーテリングの良さもあるが、シャープで秀麗なグラフィックの賜物でもあるだろう。このコミック、とにかくグラフィックがいい。しかも今作、作者であるショーン・マーフィーが作画両方を手掛けているのだ。作画が分業のアメコミでは珍しいような気がするが、オレが知らないだけかもしれない。正直、日本の漫画でもここまでクオリティの高い作品は少ないかもしれない、とちょっと思った。

もう一つ面白いな、と思ったのは、この作品が映画版『バットマン』の影響や引用が少なからずある事だ。『バットマン』映画歴代バットモービルが登場したり、ジョーカーがあまりに長い銃身の銃を持っていたり(バートン版『バットマン』の引用)というのもあるが、ナイトウィングバットガールやハーレークインはいかにもアメコミなタイツ姿で登場することが殆どなく、敵側にしてもアサルトライフルを構えた強面の傭兵が登場する場面などは、リアルさにこだわったノーラン版『ダークナイト』の影響が大なのではないかとちと思った。この辺アメコミに詳しくないので間違っているかもしれないが。

なにしろ詳しくないなりに、この『カース・オブ・ホワイトナイト』と前作『ホワイトナイト』は、バットマン・ストーリーとして相当に読み応えのある、読むべき作品なんじゃないかと思う。もうオレはベタ褒めなんで、興味が湧いた方は是非読んでくれ!当然両方併せて読むのが吉だ!ちなみに今作は本編とは別にMr.フリーズが主役の短編が収録されている。これもナチとウェイン家の秘められた関わりを描いた問題作だ。

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バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト (DC BLACK LABEL)

バットマン:カース・オブ・ホワイトナイト (DC BLACK LABEL)

 
バットマン:ホワイトナイト

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