売れない漫画家は死んだ筈の特殊工作員だった!?/映画『ヒットマン エージェント・ジュン』

ヒットマン エージェント・ジュン (監督:チェ・ウォンソプ 2020年韓国映画

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「売れない漫画家は死んだ筈の特殊工作員だった!?」という2020年公開の韓国コメディ・アクション『ヒットマン エージェント・ジュン』でございます。むさっ苦しい漫画家がいざ特殊部隊突入!?ともなると魔人の如く立ち振る舞っちゃう!という予告編が楽しそうで劇場に足を運んでみました。それにしてもなぜ特殊工作員が漫画家になっちゃうんでしょう?

主人公の名はジュン(クォン・サンウ)。幼くして両親を亡くした彼は韓国国家情報院に拾われ、秘密裏に暗殺専門の特殊部隊員として育てられました。しかしジョンには漫画家になりたいという望みがあったんです。とあるミッションで死亡に見せかけ逃亡した彼はまんまと漫画家になり家族までもうけていました。とはいえ描いた漫画は不評の嵐、困り果てた彼は特殊工作員時代の実話をつい漫画にしてしまいます。するとそれが空前の大ヒット、ジュンを穀潰し扱いしていた妻や娘にまで喜ばれます。ところがその漫画が国家情報院とジュンの宿敵である国際テロリストの目に留まり、彼は双方から追われる身に!?

「記憶喪失の男は実は最強特殊工作員!」とか「一般人だと思われていた男は実は退役した特殊工作員!」とかいうお話はハリウッド映画でもよく見かけられ、地味なおっさんやお兄ちゃんが恐るべきスキルで無双しまくり敵を完膚なきまで叩き潰す!という爽快感で人気を呼んでいます。今作ではそれが「漫画家さんが元特殊工作員!」というお話なんですが、この物語のキモとなるのは漫画家としては相当ヘボく家族からも相手にされていない、という残念極まりない部分における落差で笑いを生み出しているコメディということなんですね。同時に冴えない漫画家が戦いの場に出ると疾風怒濤に敵を倒す!という落差がまた見所なんですね。

この作品でまず目を惹くのは、主人公の描く漫画がアニメーションで再現されているという事でしょう。まず冒頭からアニメーションではじまりびっくりさせられるんですよ。その後の主人公がかつて行ったミッションの漫画化作品もやはりアニメーションで描かれ、まあ至極単純なものなのではあるんですが、斬新さは感じる事は出来ましたね。また、実際に描かれた漫画はWebコミックの体裁をとっており、これがオールカラーで、読者はみんなスマホで閲覧して即座に好き嫌いのリアクションをとれるんですね。これ、韓国だと割とポピュラーな漫画の流通の仕方なのでしょうか。

お話はその後、かつての味方であった国家情報院と宿敵である国際テロリスト集団の双方に追われ、さらに妻と娘を人質に取られた主人公が、命を懸けてそれと対峙する!という展開に持ち込まれます。こう書くと物凄く面白くなりそうに思えるんですが、いかんせんシリアスとコメディのバランスが悪く、どっちつかずのままお話が転がってしまってるんですよ。シナリオがグズグズな上に演出のもたつきが目立ち、おまけにギャグがベタ過ぎるんですよね。敵味方含め登場人物たちのキャラ設定もギャグに持って行きたいばかりにその時その時で揺らいでしまい、行動に一貫性を感じなかったりもします。この辺りで不完全燃焼気味の残念な完成度に至っています。

しかし、家族愛やかつての同僚同士の絆でまとめようとしたクライマックスはそれはそれで心地よく、また温かい笑いももたらしており、あまり嫌いになれない作品なのも確かなんですよね。『ヒットマン エージェント・ジュン』は決して完璧な作品ではありませんが、そこそこに楽しめる、観て損はしない映画ではないかと思います。