アシモフの『ファウンデーション』シリーズを読んだ

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 銀河帝国興亡史1〕第一銀河帝国は崩壊しつつあった。だが、その事実を完全に理解している人間は、帝国の生んだ最後の天才科学者のハリ・セルダンただ一人であった! 彼は来たるべき暗黒時代にそなえ、第二帝国樹立のためのファウンデーションを設立したのだが……巨匠が壮大なスケールで描く宇宙叙事詩

銀河帝国興亡史2〕天才科学者セルダンによって辺境の惑星ターミナスにファウンデーションが設置されてから二百年が経過した。はじめは百科辞典編纂者の小さな共同社会として発足したファウンデーションも、やがて諸惑星を併合し、着々とその版図を拡大していった。だが、ついにかれらの前に怖るべき敵が……

銀河帝国興亡史3〕その超能力を駆使して第一ファウンデーションを撃破したミュールは、次に第二ファウンデーションの探索を開始した。自らの銀河帝国を樹立するためには、なんとしても謎に包まれた第二ファウンデーションを発見、撃破せねばならなかったからである! SF史上に燦然と輝く不朽の宇宙叙事詩

SF小説史に燦然とその名を残すSF小説の古典、アイザック・アシモフの大河長編『ファウンデーション』シリーズ3部作を読んだ。厳密に書くとアシモフの『ファウンデーション』シリーズは7部まで書かれ、アシモフの死後も別の作家で3作書かれてているが、1850年代に単行本化された第1部から第3部までを「3部作」と呼ぶのは特に問題ないらしい。

この3部作、大昔に創元推理文庫から出ていた『銀河帝国の興亡』の印象が強くて、SF好きだった10代の頃「有名作だし読んどかなきゃなー」と思いつつ全3巻というボリュームに腰が引けて結局読む事が無かった。そもそもアシモフ自体にあまり興味が無かったのもあるが。その後その3部作は早川書房から『銀河帝国興亡史』という形で再刊され、さらにそのKindle版がいつだかバーゲンになっていたのでついつい購入してしまい、それを最近やっと読み終わったというのが経緯である。

物語の舞台は人類が銀河系を遍く支配し銀河帝国を築き上げていた遠未来。しかし歴史心理学者のハリ・セルダンはその衰退と崩壊を予見し、数万年続くと言われる暗黒時代を短縮するため、人類の英知を収めた「ファウンデーション」を設立することを提案する。やがて予見通り銀河帝国は衰退へと向かい、銀河は混迷の時を迎える事になる。設立されたファウンデーションは様々な危機を迎えるが、それを巧みに乗り越えてゆく様が描かれてゆくことになる。この3部作はもともと連作中編として発表されていた作品をまとめたもので、3部作の時間内では数百年の時が経ち、登場人物もころころ入れ替わってゆく。

とまあそんなお話なのだが、正直なところ、つまらなかった。まず、単純に古臭く感じた。何も今これを読まなくてもいいんじゃないかとすら思った。それと、銀河帝国がなぜ衰退し数万年の暗黒期を迎えるのか理由が分からない。まあこれは3部作以降で説明されているのかもしれない。さらに、銀河人類の壮大な歴史を描くものであるにもかかわらず、妙にスケールが小さく感じた。ファウンデーションが迎える危機やそれからの回避の描写は、ほぼ会話とその結果のリアクションが中心で、状況は描かれるが情景が描かれないがために、まるで少数の登場人物だけで占められた密室劇を見せられているような気分になってしまうのだ。ファウンデーション・シリーズの特徴のひとつにアシモフお得意のミステリ要素が挙げられるが、どうもそのミステリ要素がスケールを狭めているのではないかと感じた。あと、申し訳ないのだが、訳がイマイチ過ぎる。

それにしてもこの『ファウンデーション』シリーズはなぜこれだけ支持を得たのだろう。アシモフはギボンの『ローマ帝国興亡史』から作品の発想を得たのらしく、悠久の時の中で移ろう帝国の運命を銀河規模で描こうとしたということなのだろう。とはいえ、あとがきでも触れられていたが、この作品はむしろ執筆当時の1940年から50年代のアメリカと世界の状況が重ね合わされているような気がする。それはまず当時第二次世界大戦が勃発していたということだ。ここで、例えば古くから存在し衰退の影が差す銀河帝国をヨーロッパ、歴史心理学という科学合理主義を打ち出すファウンデーション新興国アメリカと見るなら分かり易い。そして完璧だった筈のセルダン・プランを脅かすミュータント種族ミュールはナチス・ドイツヒトラーだったのではないか。長き歴史の中で疲弊してゆくヨーロッパと資本主義大国として世界を牽引してゆくことになるアメリカ、その対比が『ファウンデーション』の物語にこめられているような気がした。