ブルースを聴いていた

ザ・グレイト・ジョン・リー・フッカー

最近たまにブルースを聴いている。これまで全く聴くことは無かったし、とりたてて興味も無かったのだが、ある切っ掛けからちょっとばかり聴いてみたら、「こりゃいいな」と思ってしまったのだ。

その切っ掛けというのはアッティカ・ロックのミステリ小説『ブルーバード、ブルーバード』を読んだことだった。黒人テキサスレンジャーを主人公とするこの物語は、ブルースマンが重要な役割を持ち、ブルースの演奏シーンも挟まれる。なにより小説タイトルがブルース奏者ジョン・リー・フッカーの曲のタイトルから採られていたのだ。そして作品の雰囲気を掴んでみたくてフッカーのアルバムを聴いてみたら、これがいい。どういいか、というと、オレがブルースに対して抱いていた固定観念とまるで違う音を奏でていたのだ。

■ザ・グレート・ジョン・リー・フッカー/ ジョン・リー・フッカー

ザ・グレイト・ジョン・リー・フッカー

ザ・グレイト・ジョン・リー・フッカー

 

■プレイズ・アンド・シングス・ザ・ブルースジョン・リー・フッカー

プレイズ・アンド・シングス・ザ・ブルース
 

ろくに聴いたことも無いくせにオレがブルースに抱いていたイメージというのは、気怠く悲しげで、ギター一本で切々と歌い上げる、ウエットで泥臭い音楽だということだった。ブルースファンの方には怒られそうだが、なにしろそんなイメージだった。ところが、オレが聴いたフッカーの音は、歯切れがよく軽快で、スローな曲にしても力強さを持ち、これがギターだけなのかと思わせるほど厚みと広がりを持つ音を奏でていたのである。

確かに歌われる詩の内容には悲しみや遣り切れなさが込められているのだろうが、ウェットさよりも乾いた情緒を感じた。シンプルな構成の音は聴き易いが、聴いていて決して飽きが来ないのは、シンプルに思えて相当に技巧的な演奏がされているからなのだろう(オレは楽器をやらないからこの辺りは想像でモノを言っているのだが)。 確かに音は泥臭さがあるが、オレはジャマイカン・レゲエをよく聴いていたので、ブルースの泥臭さ土臭さはまだまだスマートに感じたし、このぐらいの「臭み」のある音のほうが馴染みやすかった。

大昔「ロックというのはブルースの発展形である」であるというのをどこかで読んだ事があったが(なにしろ音楽をやらない人間なんで間違った認識だったらごめんなさい)、確かに大昔よく聴いていたロックの片鱗を大いに感じる事が出来るし、当然かもしれないがロックよりも音的な純度が高く感じた。ブラック・ミュージックとしても、なによりルーツ的なジャンルということもあろうが、ジャズのような複雑さ敷居の高さを感じず、ソウルやR&Bのようなこってりした商業性を感じることもない。雑味が無く、音が澄んでいて、ダイレクトに耳に飛び込むように聴こえるのだ(なにもかもイメージで書いていて大変申し訳ない)。

これはもっとブルースというものを聴いてみたい。そう思ってネットをざっくり探し回り、id:mureさんのはてなブログ「Shake!」で「はじめて聴くブルース9枚」という記事を見つけた。そしてそのビギナーに優しいラインナップを読んで「これは四の五の言わずこのラインナップ通りに聴けばいいのではないか」と判断し、9枚のうちの7枚(エリック・クラプトンローリング・ストーンズを外した)を入手、聴いてみたのである。するとこれがもう、さらに芳醇なブルース体験をすることが出来たというわけなのだ。id:mureさん、素晴らしい記事ありがとうございます。 

という訳で「はじめて聴くブルース9枚」で紹介されていたアルバムのうちオレが聴いてみた7枚のアルバムを並べておく。どれもそれぞれに楽しめたが、オレは単なるビギナーなので、きちんとした解説は「はじめて聴くブルース9枚」を読んでいただく方がいいだろう。とはいえ、ビギナーなりの印象をざっとだけ書いておくことにする。

 

■コンプリート・レコーディングス/ロバート・ジョンソン

コンプリート・レコーディングス

コンプリート・レコーディングス

 

「伝説のブルースマン」と呼ばれるロバート・ジョンソン全音源を2枚組CDに収録したもの。淡々と爪弾かれるギターはシンプルの極みだが、少ない音数にも関わらず味わい深く的確で、高いトーンの歌声と絶妙なアンサンブルを醸し出している。ある意味最もブルースのルーツに近い音なのだろう。なんと言っても、もう100年も前になる録音なのだ。しかも、アーチストの写真がこのジャケットのものしか残っていない、というのもなんだか伝説的っぽいじゃないか。実は今回紹介する中で最も素晴らしい、そして和む事のできる音だと思えた。

■RCAブルースの古典/V.A.

「古典ブルース」 の様々なアーチストの音源が全49曲に渡って収録された2枚組。数度聴いたぐらいでは全貌が把握できないぐらい程たっぷりと音が詰まっているが、古典らしい素朴さと土臭さがとても心地いい。 

■ベスト・オブ・マディ・ウォーターズマディ・ウォーターズ

ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ+8

ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ+8

 

このマディ・ウォーターズまで辿り着くと「淡白、素朴」とは違う、より輪郭のはっきりした音になってきたように感じたな。音のタメは大きくなり重く黒々とした味わいに満ちている。

■モーニン・イン・ザ・ムーンライト/ハウリン・ウルフ

モーニン・イン・ザ・ムーンライト(2イン1)

モーニン・イン・ザ・ムーンライト(2イン1)

 

ハウリン・ウルフはその独特なヴォーカルも含めて実にワイルドな演奏が印象的だが、楽曲によっては意外とポップであったりする。 

■モージョ・ハンド/ライトニン・ホプキンス

録音状態が良いせいなのか、最初聴いた時は他のブルースアーチストの音よりも分厚くてさらにモダンに聴こえたな。さらにこってりと黒々していて色気がある。基本はやはりギター一本なんだけどね。 

■モダン・ブルース・ギターの父/Tボーン・ウォーカー

モダン・ブルース・ギターの父

モダン・ブルース・ギターの父

 

「モダン・ブルース・ギターの父」と呼ばれているTボーン・ウォーカー、楽曲にはホーンも導入されそもそもが全体的にモダンである。オレなどは「ジャズとの境目はどこにあるのか」と音楽的知識の無さに悩んでしまったほどだ。  

■ライヴ・アット・ザ・リーガル/B・B・キング

ライヴ・アット・ザ・リーガル

ライヴ・アット・ザ・リーガル

  • アーティスト:B.B.キング
  • 発売日: 2015/09/16
  • メディア: CD
 

この中で唯一名前を知っていた(が聴いたことの無かった)B・B・キングなのだが、こうして聴いてみると最もバックの音が多く分厚くダンサンブルでポピュラーな音を出している。そしてまた音楽的知識の無いオレは「これもまたブルースなのか!?」と驚いてしまった。むしろこれはリズム&ブルースと名付けられるものなのか。オレとしては淡白なブルース楽曲のほうが好きかもしれない。とはいえこのB・B・キングの音まで辿り着くことにより、ブルースというジャンルの変遷をひとつの輪郭として捉える事ができたともいえる。

 

◎最後に

ところでオレはついこの間「EDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック」に戻って来た」なんてブログに書いていたが、またぞろ今度ブルースに行っちゃったの?というかというとそうでもない。EDMとブルースを並行して聴いているのだ。通勤時やちょっと元気のいい時はEDM、寛ぎたいときはブルースって感じで使い分けてる。

こんな、コンピューター制御された最新型のEDMと、ギター一本で奏でられ、下手すると100年前の録音作品もあるブルースを同時に聴いている、というのが自分でも面白い。落差が激しいが、その中間はだいたい聴いたからもういいや、というのがあるのかもしれない。しかしEDMというのは実は相当シンプルな構造をした音楽で、それがブルースのシンプルさとオレの中では繋がっているのではないかと、なんだか分かったような分からんようなことを思っている。

というわけでブルースの話は以上です。