■EDMばかり聴いていた
もうかれこれ20年以上、テクノやらハウスやらを始めとするEDMばかり聴いていた。こうしてオレが60歳近くなるまで聴いているということは、一生聴き続けるんじゃないかとすら思っていた。しかしどういう理由なのかは分からないのだが、突然そういう音楽生活が煮詰まってしまい、 一旦EDMをシャットダウンして他ジャンルの音楽ばかり聴くようになっていた。それは2018年の4月、ダブ・ミュージックの神、リー”スクラッチ”ペリー遍歴の旅から始まった。
それから2年ばかり、ルーツ・レゲエに行ったりプリンスにドハマリしたり、最終的にPファンクやらドアーズやらジェネシスやら、もはやノンジャンルの迷走状態で手当たり次第に聴いていたのだ。なんかこう、EDMばかりで凝り固まった耳を洗浄したい、と思っていたのかもしれない。
で、まあ、そろそろ、もういいかな、と思ったわけだよ。そろそろまた、EDMの無機質な世界に戻ろうかとね。ただ、EDMというのは新陳代謝の早い世界だから、2年のインターバルがあるとなにがどうなってしまっているのかさっぱり分からない。そこで、とりあえず手にしてみようと思ったのが「Fabric」のDJ Mixシリーズだったというわけだ。
Fabric。ロンドンで1999年から運営しているアンダーグラウンド・ダンス・シーンを代表するクラブの名前だ。オレは海外旅行には殆ど興味の無い人間だが、今海外のどこかに行っていい、と言われたら、真っ先にこのクラブに行きたい、と思うほどに興味を惹かれて止まないクラブだ。
このFabric、2001年からレーベル運営も行っており、ハウス/テクノ中心のDJ Mixアルバム・シリーズ「Fabric」と、ドラムンベース/ダブステップ中心のDJ Mixアルバム・シリーズ「FABRICLIVE」の2つのラインナップで音源をリリースし続けてきた。それぞれがそのときそのときの最新鋭のDJを登用し、常に最先端のEDMとそのDJ Mixを披露し続けていたのだ。オレもこのFabricのDJ Mixシリーズは大のお気に入りで、数は分からないが相当のCDやDL音源を聴いていた。CDはどれも缶入りとなっていて、それがまた独特だった。
で、久しぶりにそのFabricのDJ Mixアルバムを入手しようと調べたら、既にこれが「Fabric」「FABRICLIVE」それぞれで100作を迎えており、そしてこの100作でもってナンバリングを廃していたことを知った。「Fabric 100」が2018年10月リリース、「FABRICLIVE 100」が同9月と言うから、オレがEDMを一旦聴かなくなったすぐ後だったようだ。
ナンバリングを廃した後も「Fabric Presents」という名称でDJ Mixアルバム・シリーズはリリースされ続けており、これからも変わらず良質のDJ Mixアルバムを手に取ることができるだろう。それにしても「Fabric」「FABRICLIVE」合わせて200作のDJ Mixアルバムをリリースし続けていたというのはまさに偉業であり、それぞれのナンバリング100番は区切りと言うこともあってか力の篭ったアルバムとなっている。この2作と、その前後にリリースされたFabric関連のアルバムをここでザックリと紹介しよう。
■ナンバリング100番前後のFabric音源を紹介してみる
Fabric 100/Craig Richards, Terry Francis & Keith Reilly
テクノ/ハウス中心にリリースされてきた「Fabric」シリーズの栄えある100番目はCraig Richards、Terry Francis、Keith Reillyという3人のDJがそれぞれアルバム1枚づつを担当する豪華3枚組!やはりお祭はこうじゃなきゃ!3者ともオーソドクスな選曲とDJプレイで特別新規なものはないにせよ、むしろ安心して聴ける(踊れる)スムースなテクノ/ハウスを展開していると言える。
Fabriclive 100/Kode 9+Burial
ドラムンベース/ダブステップ中心にリリースされてきた「FABRICLIVE」 シリーズの記念すべき100番目はレーベルHyperdubの主催者Kode 9と異能DJ・Burialが共同でターンテーブルを担うダブルDJ作品。これが「100番目」の名にし負う実にラウドなハイパーミックスで、まさに有終の美を飾るアルバムとなっていた。
20 Years Of Fabric
その後Fabricでは創設20周年を記念した2枚組コンピレーション・アルバムをリリースしている。こちらは様々なDJがそれぞれ1曲づつ参加した全20曲のノンミックス・アルバム。
Fabric Presents Amelie Lens
ナンバリング100以降にリリースされたAmelie LensのMixはバッキバキにダーク&ハードコアなテクノ・チューンがゴリゴリ唸りガッツンガッツン刺さりまくる、これはもう相当の歯応えのDJ Mix。
Fabric Presents Martinez Brothers
ブロンクス出身のMartinez Brothersが参戦したFabric作品はファンキーなアンダーグラウンド・ハウス・ミュージック。
Fabric Presents Bonobo
多ジャンルにまたがり芳醇な音世界を構築するエレクトロニック系プロデューサーBonoboがFabricに降臨。豊かで抒情的なメロディを持つ音群で構成された技巧派な1作!
Fabric Presents Kölsch
Kompaktからのリリース作品で知られるデンマークのプロデューサーKölschのFabric Mixは全て自らのオリジナル作品で占められている。淡々と続いてゆく音響の狭間から次第に幽玄な世界が覗いてくる。
Fabriclive 96/Skream
ダブステップ界の寵児として登場したSkreamはその後EDMへの接近を果たし、このFabric Mixでもそういった彼の音遍歴が伺うことが出来る。刻々と変化しつつドラマティックな終局に近付いてゆくMixがGood。
Fabric 98/Maceo Plex
キューバ系アメリカ人DJ、Maceo PlexによるFabric98番はダークでメランコリックなテクノ・チューンから始まりそのままダークさを維持しまま徐々に狂騒へと変化してゆくMixだ。
Fabric 99/Sasha
80年代後半から活躍するUKのレジェンドDJ、Sashaが満を持してのFabric参戦だが、今まで参加してなかったんだ?と思ったほど。ミステリアスなアンビエント・ハウスから始まりその後も静謐さを湛えながらメランコリックなメロディが揺らぐ美しいMix。
Fabriclive 84/Dub Phizix
ベースミュージック・プロデューサーDub PhizixによるFabriclive84番。エッジの効いたビートと地を這うベースが唸りまくるダブステップ&ドラムンベースMix。
■最後に、お得な111曲収録コンピレーションを紹介
2016年6月、ナイトクラブFabricでオーバードースによる少年の死亡事故が起こり、無期限の営業停止命令が下されるという事態に発展した。その後の裁判を通し再発防止の取り組みが認められ営業再開となったが、その間、Fabric救済基金の一環として111トラックにも及ぶコンピレーションアルバムがリリースされた。営業が再開された現在もこのコンピレーションは£9.99でD/L購入することができる。様々なアーチストが参加した111曲、10時間超のEDMコンピレーションが日本円で1300~1400円ほどで手に入る!お得じゃないか!EDMに興味がある方に是非!
■fabric
http://www.fabriclondon.com/store/save-fabric.html
■Bandcamp