18世紀末スウェーデンを舞台にした歴史ミステリ『1793』

■1793 / ニクラス ナット・オ・ダーグ

1793

1793年――フランスでは革命の混乱が続き、その年、王妃マリー・アントワネットが処刑された。スウェーデンにもその空気は広がっており、前年1792年には国王グスタフ3世が仮面舞踏会の最中に暗殺されている。無意味な戦争と貧困にあえぐ庶民の不満と、王制への不信がマグマのように煮えたぎっていた。  舞台はそんな、混沌とした時代のストックホルム。秋のある日、湖で男性の遺体が発見された。腐食はしていないが、四肢は切り落とされ、眼球をくりぬれ、舌と歯も奪われ、美しい金髪だけが残されていた。結核に冒され余命幾ばくもないインテリ法律家と、戦場帰りの荒くれ風紀取締官がタッグを組んで殺人事件の謎を追う――。  現代の洗練された美しい都市とはかけ離れた、貧しく、荒々しく、混沌とした18世紀のストックホルムスウェーデン最古の貴族の末裔が大胆かつ繊細に描く、重厚でスリリングで濃密な、大型北欧歴史ミステリー!!

18世紀末のスウェーデンストックホルムを舞台にした重厚な歴史ミステリである。物語の発端は湖で発見された両手両足を切断され、目も耳も歯も潰された男の死体が発見されたところから始まる。しかもそれらの肉体損傷は生きているうちに成されたものらしい。

このおぞましい事件を捜査する主人公二人のキャラクターがいい。まずはインテリ法律家ヴィンゲ、彼は結核に冒され余命幾ばくも無い幽鬼の如き出で立ちの男だ。そして”引っ立て屋”、当時の風紀取締隊を生業とする男ミッケル。彼は第一次ロシア・スウェーデン戦争(1788~90)において片腕を失い、木製の義手を付けた醜い荒くれ者である。対照的なこの二人の男が雪に閉ざされたストックホルムで謎の事件を追う。

18世紀のかの地は汚濁と貧困、暴力と絶望の渦巻く暗黒の土地であり、その悪夢の如き情景がこの物語のもうひとつの主人公となる。物語展開は主人公二人のみを追うのではなく、中盤から幾つかのサブストーリーに枝分かれし、ここでは混沌の街ストックホルムを席巻する虐待と恐怖が描かれることになるが、そのグロテスクさは殆どホラー小説の域に達している。人命も尊厳も二束三文の如く扱われ、まさに「吐き気を催す」ような肉体破壊と蹂躙とがこれでもかと描写されるのだ。

こうした圧倒的な重苦しさと忌まわしさに彩られた物語であるにもかかわらず、主人公二人が正義と真実を執拗に追い求める姿が一筋の光明の様に救いをもたらしている。実に圧倒的な作品であり、グロテスクさが気にならない方であれば是非お勧めしたい。18世紀末といえばちょうどフランス革命の起こった時期でもあり、その余波がスウェーデンに波及する様にも言及され、物語をさらに奥深いものにしている。

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