イングマール・ベルイマン監督作『第七の封印』と『蛇の卵』を観た

第七の封印 (監督:イングマール・ベルイマン 1957年スウェーデン映画)

スウェーデンの名映画監督イングマール・ベルイマン出世作となった映画作品である。そもそもベルイマンの映画など1本も観たことが無かったのに、ネットで見かけた死神と騎士のチェスシーンのスチルがあまりに美しかったので、なんと4KUHDレストア版のブルーレイボックスセットで購入してしまった(金使い荒いよなあオレ……)。 物語は十字軍帰りの中世の騎士が死神に追い立てられながら、黒死病に蹂躙される祖国を放浪するというもの。

なにより先のチェスシーンが有名だが、ここでの「擬人化されて現れる死神」の姿が当時でも画期的だったのらしく、その後も『ビルとテッドの地獄旅行』『ウディ・アレンの愛と死』『ラスト・アクション・ヒーロー』さらにチェスシーンは『(500)日のサマー』でパロディ化され、強烈な映画アイコンとして現在も残っているほどだ。また、主演を若き日のマックス・フォン・シドーが演じており、その颯爽とした魅力は一見の価値がある。

テーマは中世の混沌と神の不在という事なのだろうが、それよりも自然主義的な描写で描かれるかの時代の人々の姿と習俗が、どこか生々しくもまた愛おしく思わされた作品だった。主人公は文字通り自らの命を賭けて死神とチェスをするが、しかし彼はこの「賭け」に勝てると思っていなかったのではないだろうか。いつかは死ぬ運命であることを確として知りつつその死神と死のダンスを踊っていたのだ。死を嗤い死を出し抜きできるだけ自らの運命と抗おうとすること。濃厚な死に満ちた時代だったからこそ主人公の態度はどこまでも人間的だったと思う。

 

蛇の卵 (監督:イングマール・ベルイマン 1977年アメリカ・西ドイツ映画

その『第七の封印』ボックスセットに同梱されていた作品で、ベルイマンのフィルモグラフィ的には大きく取り上げられることはないにせよ、「ベルイマンスウェーデンに嫌気が差し海外で撮った映画」ということである種特異な作品かもしれない。物語は不況に喘ぎナチス台頭の兆しが見え隠れする暗い世相のベルリンを舞台に、兄の自殺を端に発する一人の男の地獄巡りを描くというもの。主演をデヴィッド・キャラダインが演じており、これがなかなか若々しくて驚かされる。

物語全体を貫くのは主人公アベルの孤立感と閉塞感だ。アベルは飲んだくれの宿なしであり、手を差し伸べた兄の元嫁も邪険に扱い、いつも無軌道な生活を続けている。彼のこの性向は不安に覆われた街ベルリンとそのまま呼応しており、その彼が対峙することになるある恐るべき陰謀は、ナチスドイツ生誕の邪悪なる兆しでもあるのだ。こういった形で、ナチス誕生前夜の禍々しい空気感を描き出したのがこの作品だという事ができる。ベルイマン作品ではあるがむしろ秀逸なサスペンスとして見ることも可能だろう。