メビウス&ルネ・ラルーによるSFアニメーション『時の支配者』の4K修復版を観た。

時の支配者【4K修復版】(監督:ルネ・ラルー 1982年フランス映画)

大友克洋に絶大な影響を与えたバンドデシネ界の神メビウスと、カルト的人気を集めるSFアニメーション『ファンタスティック・プラネット』を監督したルネ・ラルー。この二人がタッグを組んで製作し1982年に公開されたSFアニメーション『時の支配者』が、この度4K修復版blu-rayとしてリリースされたので早速観てみた。

物語は惑星ペルディドで遭難し天涯孤独となった少年ピエールを救うため、航行中の宇宙船ダブルトライアングルズ22号の艦長ジャファールが救出に向かう、というもの。しかしその途上では様々な困難が立ちはだかり、ジャファールと仲間たちは多くの危機を乗り越えなければならなかった。原作はフランスのSF作家ステファン・ウルの小説『ぺルディド星の孤児』。

なんといっても見所はメビウスの卓越したグラフィックから生み出される百花繚乱な世界観だろう。この作品でメビウスが担当したのはキャラクターデザイン、衣装、宇宙船、色彩設定、ストーリーボードと多岐に渡り、まさしくここに「メビウス・ワールド」が出現しているのだ。その異様な惑星の光景や独特のメカデザイン、実にメビウスらしいキャラクターなど、メビウスの表出させる世界をとことん楽しめるのだ。

ただし作品としては今一つの出来でもある。予算の関係もあったのだろうがアニメーションとしての躍動感に乏しく、これはメビウス自身も失望していたらしい。また、物語展開は少年救出へとストレートに進むことなく、多くの脱線したエピソードが盛り込まれ、観ていて困惑してしまう。これはこの作品が当初6作にまたがるTVアニメーションとして構想され、映画化に際しそれぞれ別個だったエピソードを盛り込んだからなのではないかと推測される。大人向けなのか子供向けなのか今一つはっきりしない部分も煮え切らなく感じさせられた。

とはいえ、4K修復版として蘇った映像はなかなかに美しく、製作から40年も経ったこの作品を改めて評価する指標となるだろう。なにしろバンドデシネ界の神メビウスが手掛けた数少ないアニメ作品の一つとして、大いに視聴する価値があるはずだ。

そしてこの『時の支配者【4K修復版】』をblu-rayで視聴すべきもう一つの理由は、特典映像となる『メビウスの帰還』(2007年製作/ドイツ=カナダ合作/55分)というドキュメンタリー作品の存在だ。この作品では生前のメビウスの貴重なインタビューが観られるだけではなく、マイク・ミニョーラエンキ・ビラル、フィリップ・ドリュイエ、スタン・リー、ジム・リー、H.R. ギーガー、アレハンドロ・ホドロフスキーダン・オバノンといったコミック界・映画界の華々しい重鎮たちのインタビューが挿入されるのだ。彼らが動き喋っている映像を観るだけでもオレは大いに歓喜した。

また、バンドデシネ研究家・原正人氏による詳細かつ愛溢れる作品紹介ブックレットの存在も忘れてはいけない。『時の支配者』製作時の様子や日本公開時のエピソードなど、非常に貴重な資料として大いに読み応えがあった。「スターログ」への言及などは、かつてこの雑誌を購読していたオレにとってとても懐かしく感じてしまった。

(※予告編は4K修復版の映像ではありません)