特殊能力サーカス団v.s.ナチス・ドイツ軍団!/映画『フリークスアウト』

フリークスアウト (監督:ガブリエーレ・マイネッティ 2021年イタリア・ベルギー映画

第2次世界大戦下のイタリアを舞台に、特殊能力を持ったサーカス団の面々が凶悪なナチス・ドイツ軍との戦いを繰り広げる、というバトルアクション映画です。特殊能力を持ったサーカス団の面々とは、体内から電気エネルギーを放出する少女、昆虫を自在に操ることの出来る青年、全身毛むくじゃらの怪力男、磁力で金属を引き付けることのできる道化師。さて彼らはどんな戦いを見せてくれるのでしょうか。

監督は『皆はこう読んだ、鋼鉄ジーグ』のガブリエーレ・マイネッティ。またこの作品はイタリアのアカデミー賞と呼ばれるダビッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞ほか6部門を受賞したとのこと。

【物語】イタリア国内でもナチス・ドイツの影響が強まる中、戦火を逃がれてサーカス団ごとアメリカへの脱出を考えていた団長のイスラエルが、突然姿を消してしまう。光と電気を操るマティルデは団長探しに奔走するが、怪力男のフルヴィオら3人は仕事を求め、ド派手なパフォーマンスが話題のベルリン・サーカス団の門を叩く。しかし、団長のフランツはナチスを勝利に導く異能力者を探し出し、人体実験を繰り返すという裏の顔を持つ男だった。

フリークスアウト : 作品情報 - 映画.com

サーカス団のフリークスが主人公なだけあって、作品はどことなく暗く鬱蒼とした幻想味を帯び、ヨーロッパ作品らしいくすんだ色彩と歴史を感じさせるロケーションが見え隠れしています。この中に登場する特殊能力を持ったサーカス団の姿は、とかく比較されがちなアメコミヒーロー映画とはまた別の、魔術的な存在のようにオレには思えました。サーカス団のみならず、敵役となるベルリンサーカス団長フランツもまた超常能力を持っており、彼の見る不思議なヴィジョンには驚かされることでしょう。

とはいえ最初に「バトルアクション映画」とは書きましたが、実際に戦いが描かれ始めるのは中盤を過ぎてからで、それまではサーカス団同士の仲たがいやベルリンサーカス団長フランツの異常性、そしてフランツの奸計によって監禁されたサーカス団の危機や脱出劇が延々と描かれることになり、ハリウッド的なアクションエンターティンメント作だと思って観ていると肩透かしを食うかもしれません。むしろこの作品の主題は戦争に蹂躙される名もない人々や、彼らの決死の抵抗の姿を、サーカス団員たちを狂言回しとしながらファンタジックに描いたものと観るべきでしょう。

主人公となるサーカス団員以上に強烈な印象を残すフランツですが、彼はナチス・ドイツの上級士官である兄へのコンプレックス、多指症の肉体へのコンプレックス、己の能力が国家に認められていないというコンプレックスという、コンプレックスの塊のような人間です。彼は「こうでありたい自分」と「そうではない自分」の狭間で引き裂かれ精神の歪んでしまった男です。

そしてこれは、フリークスであることを受け入れ、そういった人生を謳歌する主人公らとの対比となっているんです。このような「自分は自分、他人と変わっていたっていい」というテーマがこの作品には隠されています。そしてそんな自分を受け入れてくれる「仲間の大切さ」もこの映画の描くところです。この辺りにイタリア映画的な人間臭さや人情味が溢れているのもこの作品です。

映画としては強力過ぎる能力のせいか、最後までなかなか電撃攻撃を繰り出さない電気少女にちょっと焦れたのと、他のサーカス団員の能力がそれほど物語に貢献していない部分でバランスが悪く感じましたが、能力なんかじゃなくキャラの立ち具合が重要な作品だということなのでしょう。パルチザンの面々もなかなか個性があって楽しめました。