■プレミアム・ラッシュ (監督:デヴィッド・コープ 2012年アメリカ映画)
『インセプション』『ダークナイト・ライジング』のジョセフ・ゴードン=レヴィットが主演を務めた自転車アクション『プレミアム・ラッシュ』であります。自転車アクションって書くとなんだか迫力ありませんが、この映画では主人公がピストバイクと呼ばれる競技用自転車に乗り込み、バイク・メッセンジャーとしてニューヨークの街を駆け抜ける、というものなんですな。
ピストバイクというのはちょっと前日本でもなにかと話題になっていたノーブレーキ・マシンのことで、知らなかったんですが変速機も付いていないいわゆる単速ギア、さらに固定ギアと言ってペダルを逆に回せばバックも出来る、という機能があるんだそうです。NYでバイク・メッセンジャーたちが何故このピストを使っているのかというと、マンハッタン島は基本的にフラットなので変速ギアが必要ないということ、さらにパーツ点数が少ないので故障しにくい、簡単にパーツを取り外せないので自転車泥棒を回避できる、といった理由があるらしいんです*1。
物語はジョセフ・ゴードン=レヴィット演じるバイク・メッセンジャー、ワイリーが中国系の女子にある場所へ封筒を届けてほしい、と依頼されるところから始まります。早速目的地へ走り出そうとするワイリーを制止する一人の怪しい男。この男、「封筒配達は手違いだから俺に返せ」とワイリーに詰め寄りますが、男からヤヴァイ雰囲気を感じたワイリーはこれを振り切って走り始めます。しかし、男は車で執拗にワイリーを追い掛け回し、行く手を阻もうとするのです。この怪しい男を『テイク・シェルター』のマイケル・シャノンが演じていて、『テイク・シェルター』同様アブナイ雰囲気を漂わせています。この男の正体は誰か?封筒の中身は何なのか?封筒を渡した女にはどんな事情が隠されていたのか?様々な謎をちりばめながら、マンハッタン島を車と自転車、自転車と自転車、追跡と逃走のアクションが繰り広げられる、という訳です。
人が往来する雑踏や車で混雑する道路をノーブレーキのピストバイクが高速で疾走してゆきます。人や車、さらに路上に設置された物体など様々な障害物をそれこそスレスレで縫い、信号無視なんか当たり前、時には走行中の車につかまり、さらに自転車の機動力を生かして建物の中さえスイスイと渡ってゆくアクションはエクストリーム・スポーツそのものです。軽量かつシンプルなピストバイクにヘルメットはしているものの軽装でまたがり、猛スピードで危険な往来をくねくねと走行してゆくシーンはいつ転倒したり車に跳ね飛ばされるか観ているだけで危なっかしく、自転車ならではのハラハラドキドキ感を味わえます。Googleマップ風の検索マシンで走行最短距離を調べたり、衝突一歩手前で画面が止まり、主人公が衝突を回避するあらゆるルートを一瞬で画策するシーンなど画面のお遊びも楽しいです。
主人公ワイリーと謎の男との単純な追跡劇に落とし込まず、危険走行を続けるワイリーを追うNYの自転車警官、ワイリーとバイク・メッセンジャー仲間たちとの連係プレー、その仲間たちとの友情や恋愛や衝突も加味され、さらに謎の男や依頼主の女の正体、封筒に隠された理由などがフラッシュ・バックで盛り込まれ、段々と謎が明らかになってゆく構成になっているんですね。また、アクションとは別の部分で、主人公ワイリーがスーツ&ネクタイの仕事なんて退屈極まりないと切り捨て、自転車というマシンが持つ自由さ、束縛の無さを愛し、それが危険の伴ったものであったとしても、自らの職務、それを選んだ生き方に誇りをもって望むさまが描かれていて、観方を変えると「自転車乗りという生き方」というひとつの青春物語となっているんですね。こうした主人公の、自由を愛する生き方が爽快感をもたらす、そんな物語でもありました。日本では劇場未公開のDVDスルー作品ながらなかなかの良作でありましたよ。
- 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 発売日: 2013/03/20
- メディア: DVD
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*1:「なぜピストバイクなのか」 http://okwave.jp/qa/q4285059.html