共産主義のヒーロー・スーパーマン v.s. レジスタンス・バットマン!

■スーパーマン:レッド・サン / マーク・ミラー、デイブ・ジョンソン、キリアン・プランケット

スーパーマン:レッド・サン (ShoPro Books)
「もしもスーパーマンソ連のヒーローだったら?」というコンセプトのもと生み出されたのがこの『スーパーマン:レッド・サン』です。そう、このコミックでスーパーマンは、クリプトン星からアメリカ合衆国・カンサスの田舎町に飛来したのではなく、旧ソビエト連邦ウクライナコルホーズ=集団農場に落ち、そこで育てられたという設定なんですね。超人の能力を持つスーパーマンヨシフ・スターリンのもと、共産主義国家の正義のために日夜活躍するのですよ!これを快く思わないのが自由主義国家アメリカで、スーパーマンの脅威を排除するため天才科学者レックス・ルーサーが陰謀を巡らすのです。一方、ソ連の中でもスーパーマンの覇権による全体主義社会を打倒すべく、一人のレジスタンスが立ち上がりテロ行為を繰り返すのですが、なんと、そのレジスタンスの名はバットマンなんですね!いやあおもしれえわコレ!
コミックではスーパーマンバットマンもロシアっぽいイメージのコスチュームにマイナーチェンジしており、オリジナルとの微妙な違いを眺めるのも楽しかったりします。スーパーマンは全身黒のコスチュームで、胸にあるお馴染みの赤い《 S 》のマークは、共産主義のシンボルである槌と鎌に変えられ、物語の後半ではロシア高級官僚みたいな詰襟まで付け加えられています。対するバットマンはどことなく野暮ったいダブダブの軍服姿でマントはボロボロ、さらにマスクの額部分には寒いからでしょうか、毛皮までアレンジしている始末、マスクから覗く口の周りは無精髭だらけで実に貧乏臭いのが特徴です。しかしこの二人のロシア版アレンジ、意外と違和感無い、というか格好いいんですね。(下のイラスト参照)
スーパーマンの尽力の賜物で世界の殆どの国はソ連の同盟国となり、これらワルシャワ条約加盟国はマルクス・レーニン主義の名のもと幸福な社会を実現します。一方、資本主義国は地球上にアメリカとチリの二ヶ国のみとなり、アメリカは高い失業率と貧困から体制が崩壊しつつある国家と成り果てます。いやあ、共産主義はやはり正しかった!人民を真の幸福に導くのは共産主義だったんです!マルクス万歳!レーニン万歳!…という恐ろしくアイロニカルなテーマがこのコミックでは展開してゆくんですね。
この物語の中でスーパーマンは本人の望むと望まないに関わらず、正義と真正をスローガンに掲げるビッグブラザーとして扱われます。しかし、そもそもスーパーマンというのは正義と真正の人なのであり、それが行使されるのが共産主義なのか自由主義なのかという違いがあるだけなのです。それは大違いだろ、とも言えますが、正義と真正というものが、実は諸刃の剣であり、その行使のされかたによりこうも違ってしまう、というのがこの物語の面白さであり、それと同時に、ヒーローの正義ってなんなんだ?ということまで考えさせられます。そういった部分で、実に批評的な視点を持ち、作品としても完成度の高い物語と言えるでしょう。
ちなみにこの『スーパーマン:レッド・サン』は「深町秋生のコミック・ストリート」で深町さんが紹介されていて(『正義とは? 読者に鋭く迫る傑作「スーパーマン:レッドサン」』 )、とても面白そうだったので読んでみました。