■あの日からのマンガ / しりあがり寿
『あの日からのマンガ』の"あの日"とは【東北地方太平洋沖大地震】が発生した、あの3月11日のことだ。この『あの日からのマンガ』は、地震と津波と原発事故によって、何もかもが変わってしまった"あの日"から、涅槃の漫画家・しりあがり寿が抱き続けた「日々の想い」と、そして漫画家としての想像力をあらんかぎり飛躍させた、「全てが変わってしまった後の世界」を夢想するフィクショナルな作品が描かれている。このうち『地球防衛家のヒトビト』は朝日新聞夕刊連載の4コマ漫画で、しりあがりさんがモデルと思われるおっちょこちょいな主人公が登場し、地震後のちょっとトホホとなってしまった日常をギャグを交えて描かれる。しかもこの漫画によるとしりあがりさん、被災地にボランティアにも行かれていたようで、そこでのちょっとしたエピソードも描かれている。その他の作品は月間コミックビームに掲載された作品で、たとえば「海辺の村」では相次ぐ震災で日本全てが壊滅し、バラックと化した傾いた家に住む人々が、性能の悪いソーラーパネルを家中に貼り付け、それで電力を起こして細々と食いつないでいる、といった未来を描くSF物語だ。一旦終わってしまったこの世界は、既に絶望と困窮が日常化し過ぎて、「望みの無さ」があまりにも普段の光景になってしまい、それが当たり前のように人々が"普通"に生きていることが、なんだかとても切ない物語なんだ。でも、その「普通じゃない状況が普通になってしまった世界」って、実はオレのいる今の現実の世界、現実の日本でもあると言えるんだ。しかし物語は、そういった崩壊した世界を描きながらも、ラストはある種の希望を幻想的に描き、いわゆる【震災漫画】としても完成度の高いおそるべきクライマックスの光景を見せるのだ。ひょっとしたら今読める震災を描いた漫画として最高峰かもしれない。■ロボ道楽の逆襲 / とり・みき
■とりったー / とり・みき
とり・みきの漫画はデビュー間もない頃からファンでよく読んでいた。当初は学園モノやラブコメ風のギャグマンガを得意としていたが、その着想のベースにはSFや特撮モノへの膨大な知識が見え隠れしており、そのマニアックなネタにはいつも驚かされていたものだ。しかもとり・みきの興味はSF・特撮モノのみにとどまらず、時事ネタからトマソンまでありとあらゆるものに及び、それを1編の漫画にマッシュ・アップして投入するので出来上がった作品の情報量がハンパではないのだ。特に最近の作品はもはやストーリーさえも存在せず次から次へ小ネタが連なる非常にシュールな作風のものが多く、読んでいて「この人の頭の中身はどうなっているのだろうか」と感心させられることしきりである。さて今回紹介する作品の1冊目は『ロボ道楽の逆襲』。これが今さっき書いた「膨大な小ネタが連発されるシュール漫画」であり、さらに様々な漫画のパロディ作品まで投入されている。特に『万延元年のラグビー(原作・筒井康隆)』では、様々な漫画のオノマトペシーンを延々とカットアップし、それにより一つの漫画を成り立たせているというとんでもないシロモノだ。これってそれぞれの漫画を知っているだけではなく、オノマトペがどこでどう使われているかも知っていなければ作ることなど出来ないだろう。
もう1冊、『冷食捜査官』はSFハードボイルドなストーリー展開を見せながらもやっぱりギャグマンガという、とり・みきが得意とする手法の作品だ。近未来、安全無害の合成食料が完成し、自然の食料は全て禁止する食料統制が行われていた。しかし統制以前の冷凍食品は今だ闇マーケットで売買されており、それを取り締まる為に派遣されるのが農林水産省・冷食捜査官というわけなのだ。このへんてこな世界観を大真面目に描いたのが本作の可笑しさだろう。
そして最新刊『とりったー』はTwitterで募集した体験談を漫画にしちゃった作品集。「大震災」とか「フーターズ」とか「UMA」とかの話で皆盛り上がっているが、読んでいると作中にTwitterでオレもフォローさせていただいているあの人のアイコンやこの人のアイコンが飛び交い(とみさわさんが普通に出ていた)、まるで漫画とTwitterの境が消え去ってしまうような錯覚さえ覚えてしまった。