山へ行く (flowers comicsシリーズここではない・どこか 1)
- 作者: 萩尾望都
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2007/06/26
- メディア: コミック
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萩尾望都の最新短編集《山へ行く》はまず冒頭のタイトル作《山へ行く》がいい。今日は山へ行こうと、心に決めた主人公だったが、あれやこれや邪魔ばかり入ってなかなか山に行く事が出来ない…とただそれだけの話なのだけれど、ベテラン作家の筆致がそれをあたかも文学小説のようにまとめている。円熟の一作ということが出来るだろう。その他の作品も日常生活にちょっとだけ入り込む不思議な世界を描いているが、共通するのは非常に生活感溢れた描写だろう。萩尾望都作品にこのような生活感のイメージは無かったので、多少驚いた。ただどうしても萩尾望都独特のギリシャ彫刻のような登場人物たちの顔が浮いている様に見えるのは致し方ないか。そして圧巻だったのがラストの『柳の木』である。萩尾望都が作家として持つ作品テーマというのは「完膚無き”虚無”とそれに抗う人々とのドラマ」というものだと思っているのだが、この短編では死という虚無に愛でもって抗う美しく切ない感動作に仕上がっている。萩尾はそれを確信に満ちた恐るべき力量で描く。淡々とした描写の最後に爆発する愛惜に満ちた情念。名作である。