最近読んだコミックなどなど(その2)

艮(うしとら)/山岸涼子

山岸涼子のこれまで単行本未収録だった短編4作を収めた短編集。表題作となる「艮(うしとら)」とは「鬼門」の意味で、”方角の悪い家”に住んでしまった女性が次々と不幸な体験をしてしまう様を描く。「死神」は医療現場に現れ死者の魂を冥界へ連れてゆく霊の目撃談。「時計草」は死んだ事に気付かず彷徨う霊の話。どれも山岸お得意の定番オカルト話で、新鮮味はないにせよやはり読ませる。山岸のオカルト話は恐怖や怪異というよりも「生の不安」や「生の不確かさ」を中心的に描いており、それを「この世と隣り合う見えない霊的世界」と繋げることでフッと現実感を喪失させる部分にカタルシスがある。一歩間違うと胡散臭い宗教話になってしまう所をギリギリのところで「本当かもしれないフィクション」に見せる手腕が実に優れている。

一方「ドラゴンメイド」はテーマが変わり、フランスのコンデ美術館が所蔵する「ベリー公のいとも豪華なる時祷書(じとうしょ)」と呼ばれる15世紀に作られた世界で最も高価な希少本の謂れが語られる。それはとある貴族と結婚した奇妙な淑女の物語なのだが、これも山岸らしい不可思議さに満ちた美しい時代ファンタジーとして完成している。また、完結している山岸の長編『レベレーション(啓示)』とちょっと繋がっている部分もあって面白い。

ふたりスイッチ (3) / 平本アキラ

高校生男女の心と体が入れ替わっちゃう!?というよくある物語に、作者ならではのエロエロ要素を加味したラブコメディ第3巻だが失速気味かな。捨てコマが多く展開もスカスカだし、エロ要素が股間のアップばかりというのもちょっと芸がないと思うぞ。それとゴーヤの正体がイマイチよくわからないんだが作者も持て余しちゃってるんじゃないのか。

映像研には手を出すな!(8) / 大童澄瞳

ようやく主人公らの「作りたい(作った)アニメ」の全貌(概要)が描かれ、よかったじゃないですか、とは思うのだが、表現問題についてのイデオロギー闘争、そこからさらに大人/子供の世代間闘争へと話を膨らませてしまってる部分で読んでて白けてしまうんだよな。大人は陰険で子供は純粋っていうステレオタイプが引っ掛かるんだよ。というかこの世代間闘争って大昔本宮ひろ志が描いた学ラン漫画で既に話が終わってるんじゃないのか。

ヴィンランド・サガ(27)/ 幸村誠

遂に希望の土地ヴィンランドに辿り着き開拓を進める主人公一行だが、そこには既に先住民が住んでおり、微妙な緊張感が生じ始めていた、という展開の第27巻。主人公トルフィンはこれまで多くの血塗れの戦いを潜り抜けては生き延びてきた男だが、戦いの虚無を知っていたからこそ開拓地には武器を一切持ち込まないことを鉄則としていた。さてそこで土地を接する他民族との緊張関係に武器は本当に必要ないのか?というジレンマを描こうとするのだが、「武器があるから争いになるんだ!」という理想論的非戦闘主義にはちょっと疑問を感じるし、しかもそれを11世紀北欧で展開するのはどうなんだ?とちょっと心配になってきた第27巻である。