最近読んだコミックあれこれ

 

■風水ペット (2)/花輪 和一

風水ペット (2) (ビッグコミックススペシャル)

風水ペット (2) (ビッグコミックススペシャル)

 

どこぞの山奥の村で怪しげなオカルト知識と動物たちを駆使し世界経済崩壊後の新たなる経済体制を妄想するという、粗筋書いてるだけでも相当にアタマノオカシイ(大賛辞)花輪和一の新たなる傑作連作短編集第2弾である。いやもう細かいことはともかくこれマジ狂いまくっててサイコーだわ。訳の分からん反日毛沢東主義の爺さんとか出てきて小便垂らしながら武装蜂起がー!とか喚いてるのね。なんで反日毛沢東主義なのか全く分からないんだが、とりあえず狂っている事だけは如実に伝わってくるのよ。ここに描かれている風水を始めとするオカルト知識も世界経済知識もどこまで本当でインチキなのかやっぱり全く分からないんだけれども、要するに狂信という気の違い方はオカルトも貨幣経済もおんなじじゃないか、という事を言っているような気もするのよ。それが塩ビの大黒様でも鰯の頭でも金額が書かれただけの紙切れでも信ずるものは救われる、ただしそれは妄想の中だけの救いかもしれないけれども、といったニヒリズムがこの物語にはあるよね。イっちゃってるよなーとことんイっちゃってるよなーやっぱり花輪和一素晴らしいわ、日本漫画界の宝だわ。 

■RaW HERO (1)~(4)/平本アキラ

RaW HERO(1) (イブニングKC)

RaW HERO(1) (イブニングKC)

 
RaW HERO(2) (イブニングKC)

RaW HERO(2) (イブニングKC)

 
RaW HERO(3) (イブニングKC)

RaW HERO(3) (イブニングKC)

 
RaW HERO(4) (イブニングKC)

RaW HERO(4) (イブニングKC)

 

大爆笑ドスケベ漫画『監獄学園(プリズン・スクール)』 を大好評のうちに終了した平本アキラの新作はなんとヒーローものである。正義のヒーローと邪悪なヴィランが戦うあのヒーローものである。主人公は正義の組織に抜擢された青年だ。彼は悪の組織への潜入捜査を命令されたが、ある間違いにより女装して悪の組織に乗り込むことになるのだ。でまあその悪の組織ってのが居酒屋で反省会とか開いててね……。さらに女装の主人公に岡惚れする怪人とか現れてさ……おまけに要所要所で無意味に股間のアップが描かれてね……やっぱりムチャクチャだよ平本アキラ!当然の如くこれも大爆笑ドスケベ漫画だったよ!こんな笑った漫画久しぶりだよ!楽しいのう!楽しいのう! 

■ヴィジョン(1)/トム・キング

ヴィジョン 1 (MARVEL)

ヴィジョン 1 (MARVEL)

  • 作者:トム・キング
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2020/01/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

アメコミ。ヴィジョンってェのはMCU映画『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』 などでもお馴染みの、「真っ赤な顔のニクいヤツ」ことヴィジョンのことである。このコミックではシンセゾイド(人造人間)であるヴィジョンが同じシンセゾイドの家族を持ち普通に暮らしたい、と願うところから始まる。しかしあの見た目であの超能力だ。近所の人間は誰も普通なんて思ってしない。その軋轢の中であらゆる歯車が狂ってゆき、遂に恐るべき狂気が噴出する、というのがこのお話だ。普通って何?って物語でもあり多様性って何?という物語でもある。ディズニーのヒーローアニメ『インクレディブル』はそこをコミカルに描いたがこの『ヴィジョン』では地獄の釜の蓋が開いてしまう。アメリカにだって日本のような同調圧力があり、そこからこぼれてしまった者が殺戮の狼煙を上げてしまう、そんな物語なんだろうな。ちなみに第2巻で完結。 

■ペイシェンス/ダニエル・クロウズ

ペイシェンス

ペイシェンス

 

アメコミ。ダニエル・クロウズは映画化もされた『ゴースト・ワールド』の原作者。 この『ペイシェンス』は殺された恋人の犯人を追うためタイムマシンで過去に遡っちゃう男の話。こう書くとシリアスだしまあ話の流れもシリアスではあるが、主要人物みんなウダウダグダグダしてるか殺伐としてるかのどっちかで、つまりは救いの無い連中の救いの無い物語ではある。それよりもヘタウマな絵のアシッドぽさと安物ドラッグやってるみたいなバッドトリップ感がこのコミックの売りなんだろう。いわゆるアンダーグラウンド・コミックってヤツだが、あちらの国のサブカル的な何かなんだろうな。 

■アンダーニンジャ(3)/ 花沢 健吾

アンダーニンジャ(3) (ヤンマガKCスペシャル)

アンダーニンジャ(3) (ヤンマガKCスペシャル)

 

なんだかユルイ、にもかかわらずたまに微妙な緊張感の炸裂する、でもやっぱるユルイ、花沢健吾の忍者コミック3巻目、いまだにどこに行きたいのかよく分からないオハナシなのだけれども、とりあえず『アイアムアヒーロー』の後に違うテイストの物語鵜を模索したい気持ちだけはよく伝わって来た。でもこの物語でこの精緻な画力は必要なのか。この無駄さもまた味なのか。 

■映像研には手を出すな! (5) /大童 澄瞳

映像研には手を出すな! (5) (ビッグコミックス)

映像研には手を出すな! (5) (ビッグコミックス)

 

最近アニメ化もされて大注目作品となった「映像研」、オレも1巻から4巻まで一気読みして「創造することの愉悦」を描くその物語のありかたにとても魅せられたけれども、この4巻は確かにその路線を逐次推し進めたものであるにも関わらず「オレにはもういいかな」という気にさせられて、これは作品のクオリティとは全く関係無く、ただオレがもはやそういった事柄が面映ゆくてはるか遠くのことのように感じて、「若者たちよがんばれ」以上の感想を抱けなくなってしまったということなのだが、要するに老いぼれたせいかいろんなものに興味が薄れていくという寂しい理由があったりするわけなのですよ。皆々様にはうるせえじじいはひっこんでろと思われるでしょうが、どうもスイマセン。

いとしのムーコ(14)(15)/みずしな 孝之

いとしのムーコ(14) (イブニングKC)

いとしのムーコ(14) (イブニングKC)

 
いとしのムーコ(15) (イブニングKC)

いとしのムーコ(15) (イブニングKC)

 

柴犬のムーコと飼い主の小松さん、その他の登場人物たちの過ごす日常を朗らかに描く動物マンガなのだ。動物マンガはいいな、動物のしぐさや反応見てるだけで無限に和めるからな。併せて作者みずしなの描くムーコや登場人物のグラフィックもなかなかいいんだ。これ読んでると柴犬飼いたくなってくるよな。でもオレあと猫も飼いたいけどな。いやカピバラだって飼いたいよ。でもさあオレ、実はサボテンを持ってるんだけど、そのサボテンすらちゃんと育てられなくて結構枯らしちゃったさ。あの強靭なサボテン枯らすってどういうことだよ。まあ生き物飼うの向いてないことは確かだよ。だから近所のノラ猫をアイホンで写真に撮って愛でるぐらいで我慢してるんだよ。

■狂気の山脈にて(1)~(4)/田辺剛

狂気の山脈にて 1 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

狂気の山脈にて 1 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

  • 作者:田辺 剛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2016/10/24
  • メディア: 単行本
 
狂気の山脈にて 2 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

狂気の山脈にて 2 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

  • 作者:田辺 剛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: コミック
 
狂気の山脈にて 3 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

狂気の山脈にて 3 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

  • 作者:田辺 剛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/07/24
  • メディア: コミック
 
狂気の山脈にて 4 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

狂気の山脈にて 4 ラヴクラフト傑作集 (ビームコミックス)

  • 作者:田辺 剛
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/12/11
  • メディア: コミック
 

 クトゥルフ神話でお馴染みのラブクラフトの数少ない長編ホラーのひとつを全4巻という長さに渡って丹念にコミカライズした傑作コミックである。なにしろ田辺剛の執拗に描き込まれたグラフィックがいい、それは「狂気の山脈」に存在する有史以前に建造された謎の建造物の廃墟であったりそこに住まう名状しがたい姿の旧世界の神々の姿であったり、それらに虫けらのように蹂躙される人間たちの恐怖の表情であったりする。描き込みも凄いが想像を絶するものを画として創造することの力量も凄い。この画力と表現力なら海外に紹介されても遜色なく通じるものを感じるが実はもう紹介されてたりしてな。物語はなにしろクトゥルフだし、前人未到の地に人智を超えた存在を見た!という話の流れは古典的な冒険ファンタジーを踏襲したものであろうけれども、横溢する不気味さ恐ろしさは現代でも遜色なく通じるものがある。あとオレは有名短編作以外きちんとラブクラフト読んだ事がないのだが、クトゥルフ神話がどういったものなのかこれは非常によくわかって大変お勉強になった。それにしてもこのお話、そのまま『遊星からの物体X』に繋げる事ができるという部分で実に面白い。あれもクトゥルフ神話が念頭にあった映画だったのかな。