アラン・ムーア版クトゥルー神話4部作の第2弾『プロビデンス Act1』

プロビデンス Act1 / アラン・ムーア (著)、ジェイセン・バロウズ (イラスト)、柳下毅一郎 (訳)

プロビデンス (Act1) (ネオノミコンシリーズ)

1919年、新聞記者ロバート・ブラックは自殺で友人を亡くしたショックを癒やすため、読んだ人を狂わせるという幻の奇書を求めてニューイングランドの地に旅立つ。だがその旅は時空を越えた恐怖を彼に味あわせ、彼の人生と宇宙を決定的に変えてしまうのだった……クトゥルー神話の源泉にまでさかのぼり、『ネオノミコン』につながる新たなコズミックホラーの扉がついに開く!

伝説のホラー作家H・P・ラブクラフトが創造し宇宙的恐怖を描くクトゥルー神話。そのクトゥルー神話を「アメコミ界の帝王」アラン・ムーアが独自の視点で翻案し4部作として世に送り出したシリーズの第2作がこの『プロビデンス Act1』である。『Act1』となっているようにこの『プロビデンス』はAct3までの3部構成で出版されるらしい。既出となる第1作のタイトルは『ネオノミコン』であり、それは以前ここで紹介している。アラン・ムーアが独自の視点で翻案」とはどういうことかというと、これまで刊行されたこのシリーズでは様々なクトゥルー神話作品を再構成し、それをさらに新たな物語として成立させている部分だろうか。クトゥルー神話でお馴染みの固有名詞をあえて使わず別のものに変えているのも特徴的だ。

例えばシリーズ第1作『ネオノミコン』は新たな「ネクロノミコン」の物語の創造であるし、この『プロビデンス Act1』では「冷気」「レッド・フックの恐怖」「インスマウスの影」「ダニッチの怪」といったクトゥルー作品をベースにしながら別個の物語が進行してゆく。

つまりそれらの物語をトレースする形で物語るのではなく、それらの怪異が存在する一つの世界を描こうとしているのである。だから読んでいて最初は分からなくとも、クトゥルー神話ファンなら「ああこれはあの作品から引っ張ってきているな」と気付くという按排だ。いわばクトゥルー神話の美味しいところ取りといった感じか。

本作『プロビデンス Act1』はなにしろ物語「プロビデンス」の端緒であるため、目を見張る様なカタストロフや恐怖はそれほど描かれない。実を言うと読後感としては結構地味で、まだまだ「アラン・ムーアクトゥルー神話」の世界をチラ見させている段階だということだろう。それでも時折ゾッとさせられる場面が登場し、この物語が描くのであろう恐怖の深淵を想像させるのだ。

とはいえ一つ難なのは、この作品、手記や書籍抜粋といった形の、文章のみのページがかなり多いということだ。一つの章が終わるごとに10数ページにのぼる文章を読まされるのである。それはそれで演出なのだろうが、コミックだと思って読んでいると相当難儀させられ読みにくい。この文章パートもグラフィックで表現できなかったものかと思ってしまった。まあ能書きの多いアラン・ムーアだからなあ。それとイラストのジェイセン・バロウズも恐怖表現に関しては今一つに感じる部分があるな。まあ次巻に期待という事で。