クーデターの中で巻き起こる南北朝鮮大使館員たちのドラマ/映画『モガディシュ 脱出までの14日間』

モガディシュ 脱出までの14日間(監督:リュ・スンワン 2021年韓国映画

映画『モガディシュ 脱出までの14日間』は1990年にソマリアで勃発したクーデターを描く実話作品なんですね。かの国に駐留していた韓国大使館員にも命の危険が迫りますが、本国との連絡が一切行えず、彼ら独自に必至の逃避行を繰り広げるのです。実は全くノーチェックの作品だったんですが、Twitterでの評判があまりに高く、観に行くことにしました。主演は『1987、ある戦いの真実』のキム・ユンソク、『国家が破産する日』のホ・ジュノ。監督は『ベルリンファイル』『生き残るための3つの取引』のリュ・スンワン。

【物語】ソウル五輪を成功させた韓国は1990年、国連への加盟を目指して多数の投票権を持つアフリカ諸国でロビー活動を展開。ソマリアの首都モガディシュに駐在する韓国大使ハンも、ソマリア政府上層部の支持を取り付けようと奔走していた。一方、韓国に先んじてアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮も同じく国連加盟を目指しており、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。そんな中、ソマリアで内戦が勃発。各国の大使館は略奪や焼き討ちにあい、外国人にも命の危険が迫る。

モガディシュ 脱出までの14日間 : 作品情報 - 映画.com

「1990年にソマリアで勃発したクーデター」って、これ実はリドリー・スコット監督作『ブラックホーク・ダウン』(01)で題材にされたものでもあるんですね。『ブラックホーク・ダウン』では1993年の「モガデシュの戦闘」におけるアメリカ軍と現地民兵との凄惨な戦いを描き、その鮮烈な映像によりファンの多い作品です。また、クーデターを扱った作品としてはイラン革命を題材にした『アルゴ』(12)、東南アジアの架空の国のクーデターを描いた『クーデター』(15)、やはりアフリカの架空の国が舞台の『戦狼 ウルフ・オブ・ウォー』(17)、クーデターではありませんがアフリカにおけるアメリカ大使館襲撃事件を描く実話作品『13時間 ベンガジの秘密の戦士』(16)など、どれも緊張感溢れる素晴らしい作品が存在します。

この『モガディシュ 脱出までの14日間』ではクーデターのさなかにある韓国大使館職員の姿が描かれることになりますが、まず最初に怖いのは本国との連絡が途絶しており、救出が望めない、という状況なんですね。つまり自力でどうにかしなければならないのですが、ソマリア政府は既にあてにならず、街には狂暴な民兵たちが荒れ狂っており、大使館の中で息を潜めて籠城しているしかないのです。この状況の中、新たな問題が発生します。北朝鮮大使館員とその家族が、助けを求めて韓国大使館にやってきてしまうのです。

韓国と北朝鮮、元は同じ国だったとはいえ今は政治的緊張が続く犬猿の仲とも言える国家同士です。その一方の国である北朝鮮の大使館員が韓国大使館に救出を求める、もうこれだけで前代未聞の出来事なんですよ。韓国側は何かの陰謀が存在するのか?と危ぶみ、同時に北朝鮮大使館員を寝返らそうという企みまで行われます。北朝鮮側にしても命の危険という背に腹は代えられない事情があるとはいえ、韓国側に救いを求めてしまったことに忸怩たる思いがあります。敵対する二つの国家の縮図となってしまった韓国大使館の中で、お互いは歩み寄れるのか?脱出のために共闘できるのか?というのがこの物語の真のテーマとなります。

確かに国家においては敵同士の者たちですが、元々は同じ民族であり、個としての人間感情は、決してお互いに蛇蝎の如く憎み合っているわけではないのです。相反する政治性を凌駕した人間感情という点において、この作品は韓国映画JSA』(00)とも通じるものがあります。映画『モガディシュ 脱出までの14日間』は、緊張の中にある政治関係を乗り越え、真の人間感情の在り方を描こうとした部分に於いて、単にクーデターの恐怖を伝えるだけではない、熱く心を揺さ振る素晴らしい作品に仕上がっていました。