■アルゴ (監督:ベン・アフレック 2012年アメリカ映画)
- 1979年、革命の嵐が吹き荒れるイランで、アメリカ大使館人質事件が発生。多数の大使館員が過激派の人質となったが、混乱の中6人がカナダ大使館に逃げ込む。しかし逃亡の発覚は時間の問題であり、アメリカ国務省とCIAは6人の救出のために頭を悩ませていた。そんな中、人質奪還のプロ、CIA職員のトニー・メンデスが、「架空の映画をでっちあげ、その6人をロケ要員と偽って出国させる」という救出プランを作成、実行に移る。その偽映画のタイトルは『アルゴ』といった。この映画は18年間極秘にされた、実際の作戦を元に制作されている。
- 個人的なことから先に書くと、「アメリカ大使館人質事件」って、記憶の彼方でしたね。今から30年以上前じゃないですか。自分はまだ十代後半で、政治的なことには疎いし、イランが阿漕なことやっててアメリカが困ってる、程度の認識でしたね。そんな政治に疎い自分でも、映画の冒頭でこの事件の背景が分かりやすく説明されていて、お話にすんなり入っていけるところがよかったですね。
- このお話の面白いところは、実話であり、「事実は小説より奇なり」ではあっても、その事実は、(小説ではないが)"映画"というフィクションの存在によって救われた、ということですね。しかもその映画と言うのがスター・ウォーズの下手糞なバッタもんみたいなB級SF映画。オレは偽映画のプロデューサーがロジャー・コーマンだったんじゃないかとさえ思っちゃいましたよ。そして偽映画作戦、というのがまたアメリカらしいんですね。よく考えるとかなり荒唐無稽な作戦なんですが、でも映画大国アメリカだからそれを可能にしちゃってるんですね。
- もうひとつ面白かったのは、この救出作戦が銃や軍隊を使った戦闘作戦じゃなく、知力とはったりを駆使した無血作戦だったということですね。これがよくあるフィクションだとランボーさんやチャック・ノリスさんみたいのが出てきてエクスペンダブルズ!するのでしょうが、実際の諜報作戦っていうのはこんな風に地味に隠密に繰り広げられるものなのでしょうね。
- そして銃も持たずたった一人孤立無援で潜入する主人公の心細さと合わせ、彼が救出すべき6人の大使館職員というのが実に普通の人ばかりで、「失敗したら死んじゃうから作戦には協力できない!」とかグダグダ抜かすところなんか実にリアルでいいんだよなあ。自分だって同じ立場だったら「このCIA職員とか作戦とか本当に信用できんの?」と不安で堪らなくなりますよ。そういった不安感や緊張感が映画を終始牽引していて、観ていてずっとハラハラしどうしでした。
- そしてその作戦というのも実に一か八かの賭けみたいな部分があり、決して完璧なものじゃないんですね。さらに後方支援である国務省にしてもCIAにしてもぎりぎりまで意見が食い違い、映画後半でも「そりゃないでしょ!?」という事態が発生して登場人物だけではなく観ているこちらまでキリキリ舞いさせてくれます!こういう完璧さの無さ、突然の意趣替え、なんていうのも、実に現実らしいお話なんですよね。
- それと合わせ、作戦に協力する映画プロデューサーを中心とするハリウッドの裏面の描写が実にいかがわしくて、妙に面白いんですよ。人質救出作戦、というある種の諜報作戦を中心に描きながらも、その手助けとなった"映画"というものの魅力や魔力をこの映画は同時に描き出しているんですよ。ある意味、映画が「嘘」を現実として演出するのと、諜報活動の詐術というのは、共通しているものでもあるんですよね。そういった部分で、アメリカの、映画への偏愛を描いた映画である、ということもできるんですよ。
- 果たして人質救出作戦は無事成功するか否か?まあ実際に事実をあたってみればその結末は分かっちゃうことではありますが、シナリオ的にかなり"作り"が入っているだろうことは想像できるとはいえ、クライマックスの畳みかけるような危機また危機の連続は、"映画"の醍醐味を余すところなく伝える絶妙の演出で、非常に楽しめる映画として完成しておりました。
- 個人的には『最後の猿の惑星』の映像や『宇宙空母ギャラクティカ(1978年版)』のサイロン兵のマスク、スター・ウォーズのフィギュアなど、SF作品の小道具が多く使われていたのが楽しかったなあ。『フラッシュ・ゴードン』のミン皇帝のパクリキャラもちらりと登場し、そのミン皇帝の写真を「銀河暗黒皇帝」としてTwitterIDで使っている自分としては、映画を観ながら「暗黒皇帝だ!暗黒皇帝が映画に出演してる!」という自分しか面白くないことを頭の中で呟いておりました(いやホントにオレ以外の人にはどうでもいい話でスイマセン)。ちなみに『アルゴ』脚本の元ネタとなったSF作品はロジャー・ゼラズニイの『光の王』。こちらはヒューゴー賞受賞の名作です(…でもまだ読んでません)。
- それと監督のベン・アフレックは前作『ザ・タウン』で非常にその才能に魅せられたので、この作品でも手堅い演出を目にする事が出来て嬉しい映画でもありました。
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