映画『TENET テネット』は小難しいことは考えずにシンプルなSF諜報活劇として観るといいのだと思う

■TENET テネット (監督:クリストファー・ノーラン 2010年アメリカ映画)

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オレはクリストファー・ノーラン監督作が少々苦手である。殆どの作品で絶賛される監督ではあるが、オレ自身は好き嫌いが激しい。全部観ているわけではないが、一番好きなのは『ダークナイト』だな。ただし後半は駄目だ。『インセプション』は初見時嫌いだったが、二回目に観て好きになった。他の「バットマン」シリーズ、あと『ダンケルク』はまあまあ。『インターステラー』はおもんない映画だったな。総じて滅茶苦茶評価している監督というわけではない。

そんなオレなのでノーラン最新作『TENET テネット(以下:テネット)』はたいした期待もせず半ば惰性で観に行ったのではあるが、これがなんと、相当に楽しめた作品だったのだ。順位で言うなら『ダークナイト』の次くらい、『インセプション』や『ダンケルク』よりも面白かったと言っていい程だ。しかしこれは『テネット』が高い完成度を誇る映画だからという事ではない。むしろ、『インセプション』の残り滓のアイディアで作ったような作品だし、『インターステラー』の半分の構成力も無い作品でもあると思う。

ではなぜそんな作品が楽しめたのか?それは、この作品が、「思い付きと勢いだけで作ったような」「結構インチキな映画」だからである。しかしそれは逆に言えば、「こんなアイディア(スパイ映画+SF時間逆行)の映画を作りたい!ボクは作りたいんだああ!」という熱意のもと、理屈をほとんど無視し、しかし持てる技量はたっぷり振り絞り、その勢いでもって作り上げられた映画の様に感じたからだ。すなわち、小難しそうに見えて結構おバカな作品であり(意味ありげに見えてフィルム逆回ししただけの映像や後ろ向きに走る演者の姿とか実は可笑しいことこの上ない)、その適度なユルさが心地よかったのである。バカなことを生真面目にやっている部分が好印象だったのだ。

映画『テネット』はある秘密諜報部員が「時間逆行テクノロジー」を使って未来からやって来た侵略者と対峙する、というSFスパイ活劇である。説明するならそれだけのシンプルな話である。しかし観た人の多くは「難解であり一回観ただけでは訳が分からない」と言う。それはそもそも「時間逆行」というギミックの扱い方が複雑で分かり難く、説明に乏しいという部分にあると思う。しかし理解の仕方としては整合感など求めず、「時々時間が遡りますよー」程度のザツさでいいのではないかと思う。

この作品でも従来のノーラン作品の様に「ややこしい小理屈(設定)」はこねまわされているが、今作においてはそれが殆どザルであり、量子論がどうとか物理学がどうとか言う以前に設定が破綻しまくっている。そもそも台詞の中で「時間パラドクスは無視」みたいなことすら言っている(世界がもしあのクライマックスで消滅するなら未来からの侵略ってどういうことだ?それと逆行・巡行した同一人物が触れ合うと対消滅を起こすと説明していたのに「あの場面」はなんなんだ?)。

しかし、そんなことはどうでもいいのだ。要は「嘘八百並べてでもこのアイディア(スパイ映画+SF時間逆行)の映像化は面白いはず」という監督の直感と熱気が先行する作品であるという事だ。そして確かに、映像面で見るならこの作品はあちこちで変なことをやっていて面白いし、「時間逆行」のギミックにより生成されるパズル的な物語の在り方は十分に楽しむことが出来た。この作品においては「考えるな、感じろ!」という言葉が取り沙汰されるが、「よくわかんないけどなんだか面白い事やってんなあ」という部分でオレは楽しめたという事なのだ。

ノーラン監督は器用に見えて実は不器用だし、賢いように見えて頑固で偏屈だし、人間描写はベタで平凡だが、そういったバイアスを自ら認知したうえでそれを跳ね返す形でこれまで傑作とされる作品を作ってきたのだと思う。しかしそれらは小理屈で煙に巻いているだけのように思えて、オレには鼻についていた部分があった。ただ今作『テネット』は本質にある「映画大好き映画バカ」の顔を覗かせ、妙なプライド高さ(高尚ぶり)が後退したように思う。そこがよかった。もしもう一度観る機会があったら今度は「バカやってんなあ」と笑いながら観てみたいな。 

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